欧州アート・カルチャー情報
パリ・カルチャー情報「石の街と、パリのテキスタイル 」 Posted on 2026/05/20 Design Stories
初夏に入り、これからどんどん日差しが強くなるフランス。とはいえ、日傘をさす習慣がこちらにはないため、カフェやレストランにある庇(ひさし)が実は、ありがたい存在であったりする。

庇は、テラス席を持つ店舗では必ずといって良いほど設置されている。夏の間、そして雨がパラつく日には本当に便利なものだ。こうした布の素材も、石造りのパリの硬い風景に癒しをもたらしているように感じる。


そんな庇にもいろいろな種類があって、カラーとしては赤や橙色、ダークグリーンが比較的多い。中にはストライプ柄にフリンジ…といった可愛らしいものもあり、店ごとに個性を出していることが分かる。
庇にもっとも多く使われている素材は、アクリル生地。これは紫外線を効率的にカットし、退色防止加工もされているためかなり長持ちするのだそう。まぶしさを抑えつつ柔らかい光を取り入れられるので、夏でも快適な生活空間が実現するという。
たしかに、夏の間は多くの人が、庇の下のテラス席で心地よさそうにスプリッツやビールを飲んでいる。湿気のないフランスだからこそできることではあるが…。

※庇の多くはオーダーメイド+規格品の組み合わせ

※八百屋やパン屋にも個性ある庇が
こうして見ていると、布が風で揺れている風景に、やっとのような生活感を抱く。19世紀のオスマン建築という非日常的な街にいるせいか、人の手が加わった柔らかいものに温かみを抱くことがあるためだ。
たとえば、フランスのレストランに見られるテーブルクロス。しかし現在のパリでは、テーブルクロスを使わない店も増えてきている。それでも「赤いギンガムチェック」のクロスを使っている店を見かけると、一気に親しみやすさを感じてしまう。赤いギンガムチェックは、フレンチ・ビストロの視覚的アイコンでもあるのだ。

※ギンガムチェックのテーブルクロスにメニューが置かれていた

蚤の市・マルシェの軒先で使われている布にも、自然と目が行く。こうした布は、もちろん商品ではなく、建築物でもなく、恒久的なものでもない。しかし空間を演出する大切な要素になっていて、その場に人間の温度が追加されているように感じる。皆、そんな布を何気なく選んでいるのかもしれないが、それぞれの素材と商品が絶妙にマッチしているところも大変興味深い。


※パリ市庁舎前、広場の工事現場に現れた「布」。写真は2025年のもの
パリの街はまた、布によってその表情が更新されている。工事現場や、建物の修復中に現れる巨大な布のカバーだ。シンプルな養生シートというより、パリでは広告や装飾が入った「仮設のファサード」になっていることが多い。
とくに歴史的建造物では、工事用の布カバーにブランド広告を掲載し、その収益を修復費用に充てる仕組みもあるそうだ。ただ、これらは自由に掲げられるわけではなく、面積、高さ、景観との調和について厳しいルールが設けられている。 そうして成立するため、結果的にデザイン性の高い布が採用されるというわけだ。
大都市では、布を見つける機会が少ないかもしれない。しかしパリでは、庇の布であれば、非常に多くの店舗で目にすることができる。
シックな庇にギンガムチェックのテーブルクロスまで。石造りの街並みにぬくもりを添える存在として、そんな布にもぜひ注目してみてほしい。 (ち)


