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パリ最新情報「パリのアトリエ長屋。美術家たちの創作がすすむ、光にあふれた場所」 Posted on 2023/01/08 Design Stories  

 
パリを歩いていると、ガラス張りの印象的な建物に出会うことがある。
それはブティックでもアパルトマンでもない。
外壁の半分以上がガラスで、何だろうと思って近づいてみると、中には天窓があり何かしらの創作風景がチラリと見えたりする。
 

パリ最新情報「パリのアトリエ長屋。美術家たちの創作がすすむ、光にあふれた場所」



 
実は、この建物は美術家たちのアトリエなのだ。
芸術の都パリといえば著名な美術館群を思い浮かべるが、このアトリエが多いことも、パリの芸術性をぐいと底上げしている。
たとえばアーティストが集まるモンマルトル地区には、このアトリエが古くから残されている。
他ではレピュブリック地区、サン・マルタン運河付近、そしてパリ北郊外のパンタン地区などに多い。
一方であまり知られていないのが、パリ左岸にあるモンパルナス地区(15区)だ。
というのも、モンパルナス地区のアトリエは1960年代から続く都市開発のため、その多くがすでに取り壊され住宅マンションに改装されていたからだ。

かつて、モンパルナスは芸術家の集う街として名を馳せた。
特に第一次世界後の開放感と、好景気で浮かれた「狂乱の時代」といわれる1920年代、モンパルナスはパリの知識人・芸術家の生活の中心となっていた。
裏を返せば、芸術家たちはパリ中心地→モンマルトル→モンパルナスと、時代とともに家賃の安い方に流れていったということになる。
こうしたアトリエは、芸術家の中でもとりわけ絵描き人に愛された。
抜群の採光と開放感が彼らにインスピレーションを与えたためだ。
天井も高く、大型作品の制作にはうってつけだった。
 

パリ最新情報「パリのアトリエ長屋。美術家たちの創作がすすむ、光にあふれた場所」

※15区、ファルギエール通りにある「アトリエ11」

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さて、そんなモンパルナス地区には世界最古のアトリエが存在する。
名は「アトリエ11(L’Atelier 11)」。
150年の歴史の間には、あのゴーギャン、モディリアーニ、藤田嗣治らがこの場所を制作活動の拠点としていた。

実はこのアトリエ11も、都市開発の一環で取り壊しが予定されていたという。
しかしアーティストや地元コミュニティがそれに猛反発、アトリエの存続をかけて長期間パリ市と闘った。
そしてついにアーティストたちは勝利を収める。
2022年12月19日、仏ヘリテージ委員会(主に文化施設への支援をする団体)がアトリエ11の全面改装・保護することを決定したのだ。
これは2022年に応募があった100のプロジェクトのうち、パリで選ばれた唯一のプロジェクトであり、105,000ユーロ(約1470万円)がアトリエに支払われることになる。

アトリエ11では2023年春より早速改修工事が行われ、再オープン後は美術館、文化センター、ギャラリーなどの団体と共催で、国内外からアーティストを呼び寄せさまざまなイベントを開くことを予定している。(2022年はウクライナからアーティストを呼び寄せ現代アートの活動拠点ともしていた)

モンパルナス地区のファルギエール通りにはかつて30軒ほどのアトリエがあったというが、現存しているのはこのアトリエ11だけ。
エコール・ド・パリの軌跡を残す場所として、今後もその活動に注目が集まる。

※エコール・ド・パリ…「パリ派」という意味で、20世紀初頭からパリに集まり、ボヘミアン的な生活をしていた画家たちの総称。
特にモンマルトルからモンパルナスに移った外国人芸術家たちのことを指した。
モディリアーニ、ゴーギャン、ユトリロ、シャガール、藤田嗣治など。
 

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※モンマルトル美術館のアトリエ跡



 
時代の流れに呑まれず屈せず、アトリエを残そうと心から闘う人がいる。
これも、パリが芸術の都と呼ばれる所以だろうと思う。(る)
 

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