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パリ最新情報「フランスのバゲット、ユネスコ無形文化遺産に決定!」 Posted on 2022/12/02 Design Stories  

 
11月30日、フランスのバゲットがユネスコの無形文化遺産に登録されることが決まった。
フランスはすでにフランス料理をはじめとした23種の無形文化遺産を有していたが、今回のバゲットは「満を持して」の登録となり、エネルギー危機などで厳しい状況にあるパン職人たちに喜びと希望の光をもたらした。

今回登録対象となったのは、実はバゲットそのものではなく「職人の技およびバゲットを巡る食文化」、である。
バゲットがフランスの歴史とどれほど深く結びついていたか、そしてそれに関わる職人の数、技、伝統が最重要視されたということだ。
もちろん、バゲットは誰もが認めるフランス食文化のシンボルであり、バゲットにまつわる逸話・しきたり・マナーなども数多く存在している。
ということで今回の登録はこうした文化的要素があいまって、守るべき伝統・次世代へと受け継がれるべき慣習として正式に認められたのだ。

これを受け、ユネスコで登録決定を伝えられたフランスの代表団は、その場で用意していたバゲットを空中に掲げて大喜び。フランスの各メディアは速報で結果を伝え、訪米中のマクロン大統領もTwitterで「250グラムの魔術」と表現しお祝いのコメントを寄せるなど、フランス国内の反響は非常に大きなものとなった。
 

パリ最新情報「フランスのバゲット、ユネスコ無形文化遺産に決定!」



 
フランスでは、毎日1,200万人がパン屋のドアを押し、年間で60億個以上のバゲットが消費されると言われている。
その材料は小麦粉、水、塩、ドライイーストの4つだけとシンプルながら、大量生産防止のため(職人を守るため)1993年の法律で正式に定められた内容だ。
また作り手の技術、気温、発酵時間などが味を大いに左右するので、バゲット作りはパン職人にとっても最高難易度であるとのことだ。

こうした理由から、バゲットがフランスの家庭で作られることはほとんどない。
しかしながらこの国の食文化を担ってきた証として、バゲットに関する興味深い逸話が残っているのも確かである。
いちばん有名な話としては、「バゲットを裏返しのまま置いてはいけない」というのがある。
これはフランス人の多くが今でも口にし実行する、一種の迷信のようなものなのだが、起源はなんと中世の時代まで遡る。
 

パリ最新情報「フランスのバゲット、ユネスコ無形文化遺産に決定!」

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魔女狩りが横行していた中世の時代、裏では死刑執行人が大量に必要となった。
ところが人々はその職業を忌み嫌ったため、仕方なく就いたのが、社会的に賤視された者たちであった。
彼らは世の中の必要悪とはいえ周囲から嫌われ、夜遅くにやっとパン屋に駆け込むも門前払いされることが多かった。
しかしそれを哀れに思った一人のパン屋が、彼らのためにバゲットを裏返しに置いて予約を開始する。
こうしてひっくり返ったバゲットは次第に「死刑執行人の予約パン=死を呼ぶ=縁起が悪い」と認識されるようになり、500年以上経った今でも迷信として根強く残っているのだ。

また、バゲットが現在のような細長い形になったのはナポレオンの時代からだと言われている。
これは、遠征用として丸い形より細長い方が持ち運びに有利だとされたため。
遠征先でもバゲットを細く長く形成することで、現地の簡易オーブンで素早く焼くことができた。
 

パリ最新情報「フランスのバゲット、ユネスコ無形文化遺産に決定!」

※フランス人の初めてのおつかいはバゲットが多い。



 
このようにバゲットは、貧富の差に関係なく、フランスの歴史と深く長く結びついている。
しかし食文化の多様化、パン職人の減少などにより毎年約400店のパン屋が閉店の運命を辿っているという現実もある。
今ではエネルギー危機によるバゲットの値上がりも避けられない。
それだけに無形文化遺産への登録というのは、バゲットへの関心を高め、パン職人の地位向上の「後押し」になるとして、関係者および国民から大いに期待されていたのだった。(や)
 

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