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パリ最新情報「障害のある人たちが希望をもって働くカフェ。フランスで大きな話題に」 Posted on 2023/05/15 Design Stories  

「CAFÉ JOYEUX」に初めて入ったのは、長いこと眠っていた太陽がようやく顔を出した初春の午後だった。義理の家族が住むリヨンを訪れ、朝からせわしなくあちこち動いていた私たちは、ブラックとイエローが基調のスタイリッシュな外装に惹かれて、このカフェでひと休みすることにした。

オーダー内容を確認しながらレジを打っていたお兄さんのものすごく真剣な眼差しと、なみなみと注がれたカフェラテをこぼさないよう、綱渡りしているみたいにゆっくり運んできてくれた若い女の子を見て気づいた。あ、ここは何かの記事で読んだ、自閉症や、ダウン症など知的なハンディキャップを抱えるひとが働くあの話題のカフェだと。とにかくその雰囲気とコンセプトが気に入って、「自閉症の義弟もこんな店で働けたらいいな」と思い店長に話を聞いてみたが、一度働き始めたら辞める人は稀で、めったに空きが出ないようだ。それだけ貴重な職場ということだ。

パリ最新情報「障害のある人たちが希望をもって働くカフェ。フランスで大きな話題に」

©CafeJoyeux

地球カレッジ

今やフランスにとどまらず、ベルギー、ポルトガルなど国内外合わせて15軒ほど展開している「CAFÉ JOYEUX」。その第一号店がレンヌ(ブルターニュ地方)にオープンしたのは2017年末のこと。
創設者のヤン・ビュカイユ=ランルザックはもともと家族経営の企業を率いていたが、とにかく船が好きで、あるときからハンディキャップをもつひとや社会から孤立した人々をヨットのデイトリップに招くという活動を始めた。
それだけですでに素晴らしいのだが、2014年にこのヨットで出会った自閉症の青年に「あなたは会社の偉いひとらしいけど、僕にできる仕事はありませんか」と聞かれ、このカフェの構想を練り始めたそうだ。「飲食店なら、彼らが社会に貢献できる力をもっていることをお客さんに見てもらえると思って。特別な施設だけでなく、ごく普通の社会のなかで仕事をすることで、彼らに自信と誇りをもってほしかった」。
彼らの存在にできるだけ光をあてたいと願うヤンは、カフェの立地は賑やかな街の中心と決めている。パリでは、観光客も多いオペラ地区とマドレーヌ地区、シャンゼリゼ通りに店を構えている。

パリ最新情報「障害のある人たちが希望をもって働くカフェ。フランスで大きな話題に」

©CafeJoyeux



店のポリシーは「Beau・Bon・Vrai(美しく、おいしく、真の価値がある)」。インテリアを手がけるのは、パリジェンヌの間で人気のライフスタイルショップ「メゾン・サラ・ラヴォワンヌ」のデザイナーだ。私がお気に入りのマドレーヌ店は、贅沢なほど広い空間がいくつもの大きな窓に囲まれていて雨の日でさえ明るい。シックだがとてもシンプルで気取りはない。

メニューはドリンクやデザート類のほか、人気のキッシュやバンズサンドなどがある。実はこのカフェ、何度も星を獲得してきた日本でも有名なシェフ、ティエリー・マルクスとコラボレートをしている。マルクスはメニューの考案を手伝い、スタッフへ料理の指導もしているそうだ。カフェ類は、最近耳にする「スペシャルティーコーヒー」(米コーヒー協会が高評価したもの)と認定されたオリジナルのコーヒー豆を用い、販売もしている。

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©OlivierPloton

ポリシーの3つめ「Vrai―真の価値」をもたらすスタッフたちはここで「Equipiers joyeux-幸せのクルー」と呼ばれている。彼らはレジやウェイター、バリスタの仕事だけでなく、リーダーの指導下でキッチンの作業も行う。誰もが仕事熱心でどんな作業にも笑顔で取り組むので、ある店のリーダーは「ふつうの企業よりも、このカフェはずっと働きやすい」と言う。クルーたちは仲が良く、出勤が楽しみで始業時間の1~2時間前に来てしまうひともいるらしい。

職場のルールと共同作業を学び、仕事をこなしていくうちに、クルーは自信をもち、ひとりで通勤するようになり、自分の銀行口座を開き、仲間や恋人をつくるようになる。このカフェとクルーたちのサクセスストーリーを知った各地の協会や市役所から、創設者ヤンのもとには「自分の街にも『CAFÉ JOYEUX』をオープンしてほしい」という要望が350件以上届いているという。

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©CafeJoyeux



「ほかの企業にもぜひ同じような試みをしてほしい。障害をもつ彼らには、できることをやってもらい、企業側が彼らに合わせればいいのだから」。
ヤンがネットラジオでそう話していたのを聞いて腑に落ちた。確かにCafé Joyeuxもそういう形で成り立っている。そして客である私たちは、丁寧にひたむきに仕事をする彼らの、ゆっくりしたリズムに合わせているうちに、ふんわりと落ち着いた気分になる。この日また来たマドレーヌ店で、ふと周りと見るとクルーたちは、エネルギッシュでピュアな光みたいなものを発していて、店のなかいっぱいに「JOYEUX(幸せ、喜び)」という名前どおりの、幸せな空気が流れていた。(ヒ)

CAFÉ JOYEUX 
www.cafejoyeux.com


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©Michael-Boudot

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