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パリ最新情報「シャンパーニュ地方で始まった、クネクネ豚とのエコなシャンパン造り」 Posted on 2023/03/10 Design Stories  

 
今、フランスのワイン生産者の間で、昔ながらの伝統的な農法に回帰する動きが出始めている。
たとえばフランスを代表するブドウの産地、ブルゴーニュやローヌ地方では、ブドウ畑に羊を放牧し雑草を食べてもらったりと、機械・農薬を極力避けたワイン農家が増えつつある。
こうした農家たちは土壌の健康維持や除草、さらには特定の農薬を必要としないという羊の能力を再評価しているとのことだ。

フランスには古来より、羊飼いという職業が存在していた。
彼らは冬になると、雪深いアルプスから平地まで羊の群れを連れてきて、畑の雑草を食べさせ土壌を改良させるのを主な仕事にしていたという。
何千年もの間、羊飼いは地域の生活を支える貴重な職業だったというが、農業機械の台頭によりフランスではすっかり衰退してしまった。
ただ昨今の気候変動をきっかけとして、ワイン生産が環境に与える負荷を軽減したいという動きが国内で活発化するようになった。
そのため2023年初めからはシャンパーニュ地方の一部のブドウ畑で、羊ではなく「豚」を畑に放す試みも始まっている。
 

パリ最新情報「シャンパーニュ地方で始まった、クネクネ豚とのエコなシャンパン造り」



 
シャンパーニュ地方、クラマン(Cramant)にあるブドウ畑「レ・テール・デ・ビュイソン」では、豚を招いた初のエコ放牧が今年初めよりスタートした。
豚の種類はクネクネ豚というニュージーランド産の小ぶりなタイプで、世界ではペットとして可愛がられている種だそうだ。

現在活躍しているのは6匹のクネクネ豚。
この試みをしているワイン農家のオリヴィエ・ゼビック氏によれば、「彼らは雑草だけでなく、地中にある根をすべてひっくり返し根こそぎ食べるため、雑草の再成長を阻止してくれている。これはトラクターの役割も担っている」とのこと。
さらに豚は地中に残されたベト病(カビの一種)に感染した枯葉を食べるので、植物の感染症も防ぐことができる。
こうした能力は羊にはないことだとゼビック氏は付け加えている。
 

パリ最新情報「シャンパーニュ地方で始まった、クネクネ豚とのエコなシャンパン造り」

※シャンパーニュ地方のクネクネ豚

地球カレッジ



 
つまりクネクネ豚の登場により、シャンパーニュ地方ではよりエコで安心なブドウ栽培がスタートしたということだ。
またゼビック氏によると、豚がいる畑では化学薬品や除草剤、肥料を必要としない。
豚の尿や糞には肥料が含まれており、雑草を処理するためのトラクターの通行量も減らすことができる。
おまけに豚の足の刺激は、土の中に微生物のフローラを作り、極端な寒さや暑さに強い土を作るのに役立つという。
さらにウィーン大学の研究によると、クネクネ豚の子豚は社会的学習能力があり、記憶力も驚くほど良いそうだ。

クネクネ豚は小ぶりとはいえ大きくなると体重が40キロにもなる。
ただ身長が低いため、枝上部にあるブドウを食べてしまうことはなく、柵の間も自発的に通りぬけるので人間は安心して仕事を任せられるのだという。
 

パリ最新情報「シャンパーニュ地方で始まった、クネクネ豚とのエコなシャンパン造り」



 
すでにワイン畑で羊を放牧している仏農家たちは、「羊がどれほど自分たちの景観やワインの品質を、根本的に変えることができるかを発見できた。農薬で枯れ、茶色く、静かだったブドウ畑が今では生命力にあふれ、喜びと豊穣さに満ちている」と話している。
シャンパーニュ地方でも同様で、「クネクネ豚をブドウ畑に連れてくると周囲の人が喜び、エネルギーと癒しが伝わってくる」と、当事者は仏メディアに対して述べていた。

クネクネ豚とシャンパンとの共存は今年から始まったばかりなので、実際の味はまだ確認されていない。
しかし羊に助けられたワインは品質に差が出るとの結果も報告されているため、シャンパンにも同等の効果が期待できる。
フランスではこうして、羊や豚のおかげで「これからのワインメーカーは本物のテロワールに近づいていくだろう」と考えられている。(る)
 

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