欧州アート・カルチャー情報

パリ・カルチャー情報「パリに残る駅舎、それぞれの時代、それぞれのデザイン」 Posted on 2026/08/02 Design Stories  

 
パリにはたくさんの駅があるが、一度地下鉄を出て国鉄の大型駅に立つと、 そのデザインに圧倒されることがある。
日本とは違い、隣国に“電車で行けてしまう”フランス。だからだろうか、それぞれが旅の玄関口として独自の個性を持っている。 今回は、そんな駅舎を築年の古い順に3つ巡ってみた。
 

パリ・カルチャー情報「パリに残る駅舎、それぞれの時代、それぞれのデザイン」

※サン・ラザール駅



 
まずは19世紀、ノルマンディ方面への玄関口として建てられた「サン・ラザール駅(Gare Saint-Lazare)」から。ここは、鉄とガラスの時代、つまり産業革命期に生まれた駅。鉄道が、人々の新しい移動手段として広がりはじめた頃のものだ。
 

パリ・カルチャー情報「パリに残る駅舎、それぞれの時代、それぞれのデザイン」

パリ・カルチャー情報「パリに残る駅舎、それぞれの時代、それぞれのデザイン」

 
サン・ラザール駅は、蒸気機関車を迎える巨大なターミナルとして造られたので、鉄とガラスの大胆なデザインがつよく印象に残る。外観の装飾としては豪華ではないものの(といってもオスマン建築自体はすごいのだが)、駅ホームを覆う“巨大なガラス屋根”がトレードマークになっている。
これは、当時の「機能美」を体現しているのだと思う。蒸気機関車の蒸気をこもらせずに、採光を確保するアイデアだったのだ。
 

パリ・カルチャー情報「パリに残る駅舎、それぞれの時代、それぞれのデザイン」

※サン・ラザール駅のホーム

 
広く、明るく、どことなく前時代を感じさせる趣があって、旅気分を盛り上げてくれるサン・ラザール駅。実際、この駅は今も昔もノルマンディ方面への玄関口になっている。
かつては印象派の画家たちが訪れ、とくにモネが駅の姿を何度も描いたそうだが、当時の人にとっては最新かつ刺激的な場所だったのだろう。蒸気機関車の白い煙がもくもくと上がる光景も、「今を描く」格好の題材だったのかもしれない。
 



パリ・カルチャー情報「パリに残る駅舎、それぞれの時代、それぞれのデザイン」

※リヨン駅

 
サン・ラザール駅の完成から数十年後。今度はパリの「リヨン駅(Gare de Lyon)」が、1900年のパリ万博に合わせて誕生した。
こちらを設計したのは、建築家マリウス・トゥドワール。パリ万博を訪れる、世界中の人々を迎える玄関口としてデザインしたのだという。
 

パリ・カルチャー情報「パリに残る駅舎、それぞれの時代、それぞれのデザイン」

※壮麗な装飾。左は第一次世界大戦に出征し戦死した鉄道会社職員を追悼する慰霊碑

パリ・カルチャー情報「パリに残る駅舎、それぞれの時代、それぞれのデザイン」

※リヨン駅構内にある有名なレストラン「le train bleu」

 
そのためリヨン駅は、パリの交通ハブというより「フランスの顔」と呼びたくなる壮麗なデザインが特徴的。天井もサン・ラザール駅より高く、ところどころに彫刻やレリーフがあって、旅そのものを祝福するかのように華やかだ。
また、フランスの南東方面だけでなく、スイス・イタリア方面の国際列車もこの駅から出ているため、旅情がたっぷりとある。隣国へ電車で行くなど、やはり日本ではできない経験。
 

パリ・カルチャー情報「パリに残る駅舎、それぞれの時代、それぞれのデザイン」

※リヨン駅のホーム

パリ・カルチャー情報「パリに残る駅舎、それぞれの時代、それぞれのデザイン」

※時計盤の直径は6.5メートルもある



 
リヨン駅の外観ファサードは、残念ながら現在は工事中だった。ただ、今回は老朽化対策ではなく、建築家マリウス・トゥドワールが設計した当時の姿を取り戻すことが目的なのだとか。そのため、リヨン駅の工事は「修復(restauration)」+「復元(restitution)」であると位置づけられているのだそう。※完成予定は2027年。
当時の姿が再現されるということでとても楽しみなのだが、こうした力の入れ具合もさすがはパリ、である。
 

パリ・カルチャー情報「パリに残る駅舎、それぞれの時代、それぞれのデザイン」

 
2024年完成の新しい駅、ラ・デファンスE線(La Défense)のホームもぜひご紹介したい。これを見ると、やはり「駅舎は時代を映す鏡」なのだなとつくづく思う。

華美な装飾は、とくになし。動線とタイムパフォーマンスを重視したスッキリな空間デザインだ。というのも、ラ・デファンス周辺は、ヨーロッパ最大級のビジネス街。毎日非常に多くの人々が行き交うため、階段やエスカレーター、コンコースの配置まで「迷わず、スムーズに歩けること」が何より大事にされている。先二つの駅とは、デザインが180度異なるものだ。
 

パリ・カルチャー情報「パリに残る駅舎、それぞれの時代、それぞれのデザイン」

 
とはいえ、ここは地下深くにありながら、二つの駅に負けないくらい天井が高い。キラキラとした壁も照明も個性的で、従来の「暗い地下駅」のイメージをくつがえす設計。これほどまばゆい駅は、パリでは少し珍しい部類かもしれない。どちらかというと、近年の世界の大型駅に共通するデザインだと感じる。
 

パリ・カルチャー情報「パリに残る駅舎、それぞれの時代、それぞれのデザイン」

 
このように、サン・ラザール駅は、19世紀の「絵になる駅」。リヨン駅は、1900年前後の「旅を祝う駅」。そしてラデファンスE線の駅は、現代の「快適な動線」をデザインした駅、という感想を抱いた。今回は3つの駅舎を見比べてみて、その時代が大切にした価値観まで見えた気がした。(や)
 

自分流×帝京大学