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欧州最新情報「どうなるジブラルタル!イギリスEU離脱に揺れる周辺市民」 Posted on 2020/12/28 Design Stories  

ジブラルタルをご存知だろうか?
スペイン、アンダルシア地方に位置し、地中海ジブラルタル海峡に小さく突き出している半島だが、イギリス領である。面積6.5㎢、人口3万人ほどの小さな町。
スペインの中にポツンとイギリス領が存在しているのは、ここが地中海出入り口の要所だからだ。
スペイン継承戦争中1713年のユトレヒト条約でスペインからイギリスに譲渡され300年以上イギリス領として存続しているが、今でもスペインはその返還を求めている。

欧州最新情報「どうなるジブラルタル!イギリスEU離脱に揺れる周辺市民」



この小さな場所が今注目されているのはイギリスのEU離脱のせいである。
12月24日滑り込みセーフという感じで自由貿易その他の協定を結んだイギリスとヨーロッパ連合だが、「この協定内容はジブラルタルには適用されない」と記されている。
ジブラルタルの扱いについては、イギリスとスペインの2国間で協議されることになっている。

イギリスはこれまでもシェンゲン協定に加入していなかったので、EU諸国からイギリスに入国するにはパスポートの提示が必要だったし、スペインからジブラルタルに入るのも同様だった。
ただ日本やアメリカから入国するときのような入国カードは必要なくEU専用レーンを使っての比較的スムーズな入国だった。
2021年1月からはこのEU専用レーンは廃止されることになる。



ジブラルタルと国境を挟んだスペイン側にはラ・リネアという町があり、ここに住み、毎日ジブラルタルに通勤している人が約15000人ほどいる。
1日に何回も国境を行き来する人々もいる。
この人たちの入国をその度ごとに、まるで日本から入国する者のように扱うのは時間的、労力的、コスト的に大変なことだ。

幸い、常にこの国境を行き来して働いているこれらの労働者については、便宜上パスポートの検閲が免除されることが既に2国間で同意されている。
スペイン側としてはこれを全スペイン国民、ジブラルタル市民に拡大したいようで、ジブラルタルとスペインの間は自由に人が行き来できるよう改定することをイギリスに要求している。
パスポートコントロールは空と海から入国してくる者だけに限る、という案である。

つまり、今までより自由になる、ということ。
スペイン案が同意されれば、これまではパスポートの検閲が必要だったジブラルタルースペイン間の陸路往来が、検閲不要になり、シェンゲン協定内と同じ扱いになる。
イギリスがEUを離脱することによって、却ってジブラルタルとスペインひいてはEUとの間の垣根が低くなる、という逆の現象が起こる。
この案だと陸路での到着は自由、イギリスからの到着にはチェックがあるということになり、イギリス領なのにイギリス人の入国に厳しいという図になる。



イギリス側が難色を示しているのはまさにこの点で、スペインはジブラルタルを取り戻すための既成事実を作ろうとしているのではないか、と警戒しているらしい。
ちなみにジブラルタルの住人は、2016年イギリスがEU離脱か否かの国民投票を行った際、圧倒的にEU残留を支持した(96%)。

イギリスEU離脱移行期間終了まで残すところ数日。ジブラルタルを巡る協定締結は最後の最後に持ち込まれそうだ。
その行方はスペイン国民の注目するところである。(林)

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