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パリ最新情報「消費者の敵?「隠れインフレ」というカラクリ」 Posted on 2022/09/05 Design Stories  

例えばスーパーで、いつも買っている商品の値上がりに気付いた時、すぐ横に他社の同じ製品が値上がりもせずに安く売っていたら、そちらに手を伸ばしたくなるだろう。
でも、気を付けなくてはならない。その商品は「価格を値上げ」したのではなく、「内容量を削減」しているのかもしれない。

“Shrinkflation”という言葉がある。英語のshrink(縮小)とinflation(インフレ)を合成して作られた造語で、商品の値段はそのままで内容量が減らされることによって実質商品の価値が上がっているというインフレの形態のひとつである。
実際に価格が変わるわけではないという気付きにくさから、フランス語では「inflation masquée(隠れインフレ)」、日本語では敵のレーダーに映らない戦闘機から名前を取って「ステルス値上げ」と呼ばれている。

パリ最新情報「消費者の敵?「隠れインフレ」というカラクリ」



9月1日、Foodwatchという、食品の品質に関する消費者の権利を保護する擁護団体が食品メーカー全6社に対し、隠れインフレを行ったことについて糾弾した、と各メディアが報じた。
今回糾弾されたのは、Danone、Saint Louis、Lindtなど、フランスどころか世界的に有名な企業ばかり。

対象となったDanone社の商品のひとつはSalvetatという炭酸水。1本当たりの価格上昇率を他社と比べて抑える代わりに、今まで1.25リットルだった内容量を1.15リットルにした。
そしてもうひとつは日本でもお馴染み、クリームチーズのKiri。1個20gだった個包装を、10%減の18gにしていた。
また、スーパーのお菓子売り場には必ず陳列されているLindt社のとあるチョコレート商品は、チョコレートを6粒減らされた上に、包装のプラスチックを増やすことによって重量を稼いでいた。商品としての総重量は20%減だが、純粋なチョコレートの重量で言うと、キロ換算で価格は30%増にもなっているそうだ。

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一応パッケージには内容量の表示があるものの、「よし、1本1.25リットル」「これは1個20gだったはず」と毎回確認して買う人は少ないだろう。しかもパッケージのデザイン自体は変わっていないため、より気付きにくい。
消費者の立場としては、詐欺にでも遭ったような、なんともモヤモヤした気持ちが残る。

糾弾に踏み切ったFoodwatchは、ここ最近の生産コストと原材料価格の高騰を鑑みれば、商品の価格上昇は仕方がないとしながらも、その方法の「不透明さ」に警鐘を鳴らす。「消費者に明確な情報を提供して欲しい」と、消費者の誤解を招かないようなアプローチを要求している。
一方でDanone社は、Foodwatchからの糾弾に対して「我々は販売業者へ価格を提案することしかできない」と返している。実際に、販売価格を決めるのは販売業者又は販売店であり、メーカーではない。メーカーが内容量を変更すること自体は合法で、それを非難することは出来ない。そのため販売店には、不透明さを払拭するためにも、消費者にも分かりやすい店頭での明確な情報表示が求められる。

フランスのスーパーでは、ほとんどの商品は、値段の下に小さくkg単位(又はLitter単位)の値段が表示されている。商品そのものの値段に目が行きがちだが、重量単位での価格チェックで本質を捉える賢い買い物が求められる時代なのである。(ケ)

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