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パリ最新情報「マドレーヌ寺院が幻想的な雰囲気に包まれる。30メートルの高さから降る『喜びの涙』」 Posted on 2023/01/16 Design Stories  

 
パリ中心部にあるマドレーヌ寺院は、ギリシャ神殿風に建てられた、世界でも異色のカトリック教会だ。
着工はルイ15世の時代の1764年。
建築にはやはり古代ギリシャ神殿を模したネオ・クラシック様式が用いられており、聖女マグダラのマリアに捧げる教会として1842年に完成した。(マドレーヌとはフランス語でマグダラのマリアを指す。)
内装も素晴らしく、フランスに名を刻む数々の大聖堂に全く引けを取らない。
 

パリ最新情報「マドレーヌ寺院が幻想的な雰囲気に包まれる。30メートルの高さから降る『喜びの涙』」



 
さてそんなマドレーヌ寺院では2010年以来、クリスマスに向けた特別な装飾が施されている。
そのためここでは幻想的な空間が毎年のように演出されるのだが、2022年12月3日から始まったのは、「喜びの涙(Larmes de joie)」と題された地上30メートルの美しいオブジェだ。
クリスマスは過ぎてしまったが、オブジェ自体は1月29日まで残されているということで、今回はその神秘的な風景を共有したい。
 

パリ最新情報「マドレーヌ寺院が幻想的な雰囲気に包まれる。30メートルの高さから降る『喜びの涙』」

 
「喜びの涙」を手がけたのは、フランス人の現代アーティスト、ブノワ・デュトゥール氏である。
同氏は「生命を感じるクリエイション」「遊び心のある作品」「作品を通して人々に対話をもたらす」という3つのコンセプトを軸に創作を広げ、フランス各地で展示を行っている。

ではマドレーヌ寺院における今回のテーマとは何か。
デュトゥール氏は、「もしもイエス・キリストが21世紀の現代に降臨するとしたら、人々は何を捧げるのか?」 この疑問にヒントを得たという。
聖書においては、イエス誕生の際に東方の三博士が「黄金・乳香・没薬」の3つを献上したとされている。
しかしそれがもし現代だったら、我々は何を宝として捧げるのだろうか?
デュトゥール氏はそのテーマを「美」「富」「儚さ」の3つに分けた。
さらに哲学的ともいえる一つ一つの物体をガラスの涙に閉じ込め、30メートルの高さからすべてを吊るしてしまったのである。
 

パリ最新情報「マドレーヌ寺院が幻想的な雰囲気に包まれる。30メートルの高さから降る『喜びの涙』」

※合計98個の「喜びの涙」

地球カレッジ



 
「美」のカテゴリーには、真っ赤なバラの花びらや孔雀の羽根、真珠などが閉じ込められていた。
3つのテーマの中では色彩がとりわけ豊かで、造られた美というより「自然界の美」に重きを置いていたのが印象的だった。
 

パリ最新情報「マドレーヌ寺院が幻想的な雰囲気に包まれる。30メートルの高さから降る『喜びの涙』」

 
また「富」では小麦、コイン、時計、金箔などが捧げられており、中にはモノポリー(人生ゲームのようなカードゲーム)、スマホといった、現代社会をアイロニックに表現した物もあった。
 

パリ最新情報「マドレーヌ寺院が幻想的な雰囲気に包まれる。30メートルの高さから降る『喜びの涙』」



 
「儚さ」にあるのは蝶々、四葉のクローバー、トンボ、水滴(をもじったもの)など。
興味深かったのは、「美」にあった真っ赤なバラの花びらが、「儚さ」のカテゴリーで大輪のバラの花になっていたこと。
人それぞれの解釈があると思うが、そのどれもが哲学的であり深く見入ってしまうような内容であった。
 

パリ最新情報「マドレーヌ寺院が幻想的な雰囲気に包まれる。30メートルの高さから降る『喜びの涙』」

 
ただこれらはカテゴリー別に設置されているわけではなく、すべて地上30メートルの天井から一緒くたに吊るされている。
マドレーヌ寺院の内部には天窓があるため、自然光に照らされとても神秘的な風景だ。

この「喜びの涙」を発案したブノワ・デュトゥール氏によると、「宗教的な意味合いは薄く、教会に通う人・通わない人を問わず、我々が現状とよく対話すること」を目的にしているという。
ちなみにドロップ型を採用した経緯としては、デュトゥール氏が雨を眺めていた時に思いついたそうで、それを「生命の源である空からの水=喜びの涙」として表現したかった、とのことだ。

現在、マドレーヌ寺院は外壁の修復作業を行っている。
そのため入口が少しわかりづらいのだが、一年を通してすべての人に無料で解放されている。
なお「喜びの涙」は2023年1月29日まで。今なら、クリスマスとはまた違った雰囲気で鑑賞を楽しめるのではないだろうか。(オ)
 

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