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パリ最新情報「日本人建築家、パリの避難所で『紙筒シェルター』の支援を行う」 Posted on 2022/03/29 Design Stories  

 
ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから一か月が経過した。
ウクライナ避難民の多くが西へ西へと逃れているが、彼らは安住の地を見つけるまでに宿泊地を転々としなければならない。
フランスにも続々と避難民が到着しており、パリは南仏の各都市もしくはスペイン方向への経由地ともなっている。
 

パリ最新情報「日本人建築家、パリの避難所で『紙筒シェルター』の支援を行う」



 
現在、パリ市は10区と12区にある2つの体育館を解放しており、最終目的地へ移動する避難民のための短期宿泊施設としている。
いずれの体育館も、パリの大型駅である東駅・リヨン駅の近くに位置しており、パリの地理に詳しくないウクライナの人々の移動をスムーズにすることを可能とした。

それぞれ最大で3日間の宿泊が可能とのことだが、大勢の人が集まる簡易避難所ではプライバシーの確保がとても難しい。
そこで立ち上がったのが、日本人建築家の坂茂氏だ。
坂氏は、紙筒でできた骨組みを使ったシェルターを開発し、日本で震災が起きた際にも各避難所で支援を行った。
今回はパリに2つの避難所が開設されるという話を受け、即座にパリ市に支援を申し出たという。
 

パリ最新情報「日本人建築家、パリの避難所で『紙筒シェルター』の支援を行う」

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例えば10区の体育館では、3月9日の開設時は簡易ベッドが並んでいるだけだったが、22日以降は坂氏の紙筒シェルターで42のプライベート空間が作られた。
温かみのあるカーテンの色は、心地よさをもたらすことを目的としているとのことだ。
現在は約80人がこの場所でつかの間の休息をとっており、それぞれ「プライバシーがあるのは本当にありがたい」と話している。
案内された避難民のなかには安堵のあまり涙を流す人もいたという。

そしてこの間仕切りの設営に関わったのは、坂氏の建築事務所とヴェルサイユ建築学校の学生たちである。
若い学生たちは熱意をもって設営に参加し、組み立ても1時間半ほどのスピードで行われた。
リサイクル可能な資材は全てフランスとデンマークの企業からの寄付で、10区まで無償で輸送されたもの。
フランスではパリでの設営が初めてとのことだが、坂氏は他にも需要があればどこへでも行く、と述べている。
 



 
軽くて持ち運びが便利なうえに、見た目も好ましい坂氏の紙筒シェルター。
坂氏はパリより先にポーランドで支援を行っており、すでに現地の各都市で320ユニットの設置に携わっている。
過去をさかのぼれば、1994年のルワンダ事件、1999年のトルコ地震、2016年のイタリア地震など世界中で活躍している。

彼の主な作品は、一時的な仮設の建築物であり、クライアントが必要としなくなればこの世から消滅してしまう運命だ。
そして彼のクライアントとは、災害や人災の被害者たちである。
しかし、現代における人道的な建築家としてその名が知られ、2014年には建築界のノーベル賞とも言われるプリツカー賞を受賞している。

海外では、日本人建築家を(建築のフィールドだけではないのだが)、日本古来の伝統という特別な枠の中に押し込めて考える傾向がいまだに根強い。
だが、発生し続ける天災・人災から人々を守る坂氏の紙筒シェルターに国境はない。
彼の案は、建築業界を根本から変えるほどの力を持っていると言えるのではないだろうか。
現在、パリ市の公式サイトでは坂氏の紙筒シェルターがトップページで紹介されている。(内)
 

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