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パリ最新情報「クリスマスのご馳走、フォアグラに変化が起きる?!変わりつつあるフランスの食文化」 Posted on 2021/12/12 Design Stories  

フランスのクリスマスでは、各家庭で最も豪華な食事がふるまわれる。
食卓に並ぶのは、スモークサーモンやフォアグラを使った前菜、キャビア、生牡蠣をはじめとするシーフードの盛り合わせ、七面鳥(またはチキンやローストビーフ)、ブッシュ・ド・ノエルなどなど。
いわば日本のお正月のような雰囲気で、地方色のあるさまざまなご馳走が食卓に並ぶのが特徴だ。

パリ最新情報「クリスマスのご馳走、フォアグラに変化が起きる?!変わりつつあるフランスの食文化」

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エリアによって多少の違いはあるものの、まずほとんどの家庭でサーブされるといって良いのが、フォアグラである。
フランス流の伝統的な食べ方は、テリーヌにしたフォアグラをバゲットにのせてイチジクジャムと一緒に、ソーテルヌワインを合わせていただくというもの。
この組み合わせは何世紀も前から伝わる特別なもので、代々クリスマスといったお祝いムードの日だけにふるまわれてきた。

しかし、時代の波というべきか、このフォアグラを辞めようという動きがフランス地方都市で起こり始めている。
12月6日、フランス各紙が報じた内容によると、国内で複数の自治体がクリスマス時期の学校給食もしくは公的行事のビュッフェから、伝統的なフォアグラを排除することに。

理由としては、フォアグラの原料であるガチョウの給餌方法が「動物愛護の観点から好ましくない」ためである。
今年、こうした「脱フォアグラ」に名乗りを上げたのが、美食の街として知られるリヨン市だ。2020年からはストラスブール市、グルノーブル市も公的なレセプションでのメニューからフォアグラを外している。(一般家庭は除く)

リヨンのグレゴリー・ドゥセ市長は、市内のレストランに対しても「市のイニシアチブに従って、フォアグラのサービスを可能な限り制限するか、停止することを期待している」と述べ、美食の街に衝撃が走った。

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今回の動きは、動物権利団体が長年圧力をかけてきた結果である。
ではフォアグラがなぜ問題視されているかというと、フランス語で「gavage(ガバージュ)」と呼ばれるその強制給餌方法にある。
原料となるガチョウやアヒルの肝臓を早く肥えさせるため、2~3週間にわたって人工的にエサを与え続けるのだが、その方法が非常に好ましくないと各方面で議論されているのだ。

アメリカのニューヨーク市では既にフォアグラの販売を禁止、イギリスやドイツなどでは生産すら禁止している。
しかし、フランスは世界のシェア8割を占めるフォアグラ生産国。当然、生産者たちは強く反発しているという。

フランスの食文化は実に多種多様で歴史が深く、フランス人のアイデンティティを語る上でも欠かせない。なかでも一、ニを争うほどのフォアグラを排除しようという動きは、日本で例えるなら「刺身を禁止する」と言われるようなものだ。

ただ一方で、フランス人の2人に1人が、苦痛を伴う「ガバージュ」に反対しているとのアンケート結果も出ている。
2019年には「ガバージュ」を必要としないフォアグラを開発するフランス企業も登場し、少しずつではあるがフォアグラ市場に変化が起きていることは確かだ。

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クリスマスは例年、フォアグラの最大の需要期となっている。
フランスメディアはこの12月、「ガバージュ」について大きく取り上げ、「動物愛護か、伝統か、はたまた経済を取るのか」といった白熱した議論が展開された。

世界三大珍味として重宝されたフォアグラも、時代とともにその幕を閉じるのだろうか。
地球や動物に負荷の少ない、エシカルな食べ物が次々に登場していることを考えると、もしかしたら数十年後にはフランスからフォアグラがなくなっているのかもしれない。(内)

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