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パリ最新情報「食品ロス削減に取り組むフランス、雄ヒヨコの殺処分を禁止へ」 Posted on 2021/08/21 Design Stories  

フランスのジュリアン・ドノルマンディー農業・食料相は去る7月、養鶏業界で行われている雄ヒヨコの殺処分を2022年から禁止すると発表した。

私たちが普段口にする卵は完全栄養食品とも呼ばれ、ビタミンCと食物繊維以外すべての栄養素が含まれている。安価で家計に優しく、良質なたんぱく質が摂れることから、家庭に並ぶ最もポピュラーな食材のひとつではないだろうか。

パリ最新情報「食品ロス削減に取り組むフランス、雄ヒヨコの殺処分を禁止へ」



当然のことながら、その卵を産むのは雌である。では雄の運命はどうなっているのかというと、実はそのほとんどが殺処分されている。ニワトリの雄は卵を産まず、肉も雌に比べて少ない。とても痛ましい話だが、ふ化してから72時間未満のヒヨコを「即死」させる場合に限り粉砕機にかけるか、ガスによって処分されているという。

これを受け、ドノルマンディー氏は仏紙Le Parisienに対し「2022年1月1日以降、すべての養鶏場は、ふ化前のヒヨコの性別を判別する機械を設置、または発注しなければならない」と述べた。

さらに「2022年は、フランスで雄ヒヨコの粉砕機やガスによる殺処分が終わる年になる」とし、この措置によって毎年約5000万羽の殺処分を防ぐことができると主張した。現在EU全体では年間3億羽の雄ヒヨコが処分されている。

仏農相は今後、ふ化前の卵の段階で処分できるよう、卵の性別を判定する機械の導入を業者に義務づけるという。機械導入投資の40%を上限として総額1000万ユーロ(約13億円)の助成金を支給すると約束した。

また来年1月からは麻酔を使わない雄ブタの去勢(食肉の臭い消し目的)も禁止する方針だという。ドイツでも2022年から雄ヒヨコの殺処分を禁止する法案が可決され、スイスでは昨年から粉砕機の使用が禁止されている。

国の法令だけではない。フランスの一般企業でも、家畜の苦痛を減らそうとする「アニマルウェルフェア」(動物福祉)と呼ばれる取り組みが広がっている。

パリ最新情報「食品ロス削減に取り組むフランス、雄ヒヨコの殺処分を禁止へ」



地球カレッジ

フランスの鶏卵メーカー「poule house」は、この雄ヒヨコの殺処分に初めて異を唱えた企業である。2017年創業の「poule house」は、ふ化前にレーザーで殻に穴を開け、性別判定するドイツ企業の技術をフランス国内で初めて導入。判定で雄だった場合は卵の段階で処分、雌だけが誕生する仕組みだ。同社はその卵を2019年から6個入り約4ユーロ(約530円)で販売しており、モノプリやカルフールといったフランスの大手スーパーで購入することができる。

キャッチコピーは「ニワトリを殺さない卵」。
パッケージに記載するにはかなりダイレクトなフレーズだが、メーカーによると「直接的な表現にすることで多くの人に問題を知らせる」ことが狙いだという。

フランスの卵は、全体的に日本より値段が高い。多くは6個入りで2ユーロ(約260円)前後で売られているのだが、「poule house」の卵はその2倍の4ユーロもする。
にもかかわらず、その姿勢が消費者の心を掴み、販売量がたったの1年で300万個から1000万個に増加したという。今年2021年にはベルギーにも進出した。

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パッケージに記載されてある「Plein Air」とは放し飼いという意味で、ニワトリは太陽光に当たって育ったことを示している。味は普通の卵と大差ないが、「命を無駄にしなかった」という安堵感があり、食品ロスを考えるきっかけにもなる。

こういった卵の生産方法は、今後数年間で欧州の主流となるだろう。
欧州委員会(EC)は、EU域内でニワトリ、豚、牛、アヒル、ガチョウなどの家畜動物のケージ飼育を2027年までに段階的に廃止することも発表している。フランス大手スーパーのモノプリでは、すでにケージ飼いの卵を販売していない。

環境保護、動物愛護の観点からフランスではどんどん菜食志向が高まっている。新しくオープンするパリのレストランでもほとんどがヴィーガンに対応したメニューを置いている。
菜食主義者かそうでないかの選択は完全に個人の自由であるが、命をいただくことを熟慮し食品ロスを防ぐことは急いで取り組むべき課題である。

食べ物が豊富にある環境にいることを考えた上で、食品ロスを減らすという意識の向上が求められている。(大)

自分流×帝京大学