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パリ最新情報「駅の空きスペースに第二の人生を。パリ郊外で広がる駅再生プロジェクト」 Posted on 2022/08/31 Design Stories  

 
パリでは切符の回数券販売が終了し、乗車券の電子化がどんどん進んでいる。
その動きはパリだけでなく、郊外や地方でも顕著になっている。
恐らく将来的には紙製の切符が完全に姿を消してしまうのだろう。
ところが駅自体は古い時期に建てられたものが多く、郊外では前時代にあった待合室などがポツンと残っている、という現象を見ることがある。
デッドスペースにあるのは、一つや二つの券売機だけ。
人が集まるパリではそのような心配はないのだが、郊外の駅はこうして廃れていく一方だ。
 

パリ最新情報「駅の空きスペースに第二の人生を。パリ郊外で広がる駅再生プロジェクト」



 
この空きスペースをどうにか活用できないか?と考えたのは、運営側のSNCF(フランス国鉄)である。
「駅は電車に乗るためだけにあるわけではない」とし、数年前から「Gares de demain(明日の駅)」と名付けた駅再生プロジェクトを開始している。
これはイル・ド・フランス(パリを含む首都圏)を中心に展開されており、駅に第二の人生を与える、という目的がある。
空きスペースとして目立つのは、やはり待合室だ。
近年では有人のチケット売り場も次々と閉鎖されているため、これらがデジタル化の犠牲になっているという。
 

パリ最新情報「駅の空きスペースに第二の人生を。パリ郊外で広がる駅再生プロジェクト」

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このような空間を失わないために、SNCFは元待合室を託児所、カフェ、コワーキングスペース、職業紹介所、自転車のレンタルスペースなどに変貌させることを進めている。
フランス国内では約1000の駅が対象だというが、鉄道網が密集する首都圏では利害関係が特に一致しているとのこと。

しかしこれはSNCFが単独で進めているわけではない。
彼らはアイデアを一般公募で募り、資金提供も行っている。
昨年では首都圏内35駅にて公募が開始され、20件もの応募があったという。
これによりSNCFは「十分な手ごたえがあり、将来の展望がある」と判断。
ただ予算の関係で、実現したのは10件に留まった。

例えばパリ西郊外・ヴァルドワーズ県のユスという小さな駅では、待合室が電動自転車のレンタルスペースに生まれ変わることが決まっている。
発案者は元俳優や映画監督といった若者たちで、自転車を貸すほかサイクリングやカヤック、美術館巡りを組み込んだ20種類の観光ツアーを企画する。
パリジャンが外へ外へと流出している今、こうした案は地域活性化にもつながるだろう。
 

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パリ東郊外のセーヌ・エ・マルヌ県では、託児所がオープンしている。
託児所はすでに首都圏内で3件目となっており、出勤・退勤時にスムーズに送り迎えできると親たちの間で評判が良いという。
開館時間は通常の託児所よりも少し長い時間帯を設定していて、朝7時から夜7時までとなっている。
ただ電車に乗り遅れた保護者にも対応できるよう、時間は柔軟であるとのことだ。
利用条件は、親がNavigo(電子乗車券)を持っていることのみ。
あとは無料のため、ひとり親や求職者でも、安心して利用できるのがメリットとなる。(一日12人まで、こちらは一般ではなくSNCF提供)
 

パリ最新情報「駅の空きスペースに第二の人生を。パリ郊外で広がる駅再生プロジェクト」

 
その他、カフェやオーガニック野菜のショップなどが続々とオープンしており、SNCFが言うように「旧待合室の伸びしろ」は計り知れない。
そこで就労が発生しているという点も重要だ。
運営側は「雇用の促進も我々の優先課題である」とし、自治体と一緒になって取り組んでいる。
また来年に向けての新しい募集も始まっているといい、中にはチョコレート職人が旧券売所の裏に工房を構え、待合室をサロン・ド・テに生まれ変わらせるアイデアがあるとのこと。
古いものを捨てることなく活用する、リユース精神が根付いたフランスらしい試みだ。(オ)
 

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