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父ちゃんの料理教室「父ちゃんのしっとりクッキーで育った息子! 辻家名物、ファザーズ・クッキー」 Posted on 2024/03/17 辻 仁成 作家 パリ

かつて、我が家のキッチンの大きなガラス瓶の中に、つねに入っていたのは、いつものクッキーであった。
息子よ、小さかった頃の君は、なくなるとケーキ・クッキーが食べたい、また買ってきて、とせがんでいたけど、あれは、市販品じゃないんだよ、と教えてあげたよね?
もう、かれこれ、何年もこのクッキーは辻家の定番お菓子として、途切れたことがない。
これは父ちゃんの自慢でもある。
君が小学生の頃には「ケーキのようなクッキーがまた食べたい」と言ってた。
君が寝た後、父ちゃんはせっせせっせとこのクッキーを作ったものだ。

自慢じゃないが、いや、自慢かな、市販のクッキーよりも絶対に美味しい。
まず、出来立ては圧倒的にしっとりとしているし、驚くほどに柔らかいし、これを食べたらその辺のクッキーはもう食べられない。
君には、わかるだろ?
偉そうに言って申し訳ないけど、我が家では、クッキーなるものは買うものじゃなく、ずっと作るものだった。
ごはんを炊くのとなんらかわない。
なくなったら作り、補充していく。
ファザーズ・クッキーだ!
あのでかいガラス瓶の中に、ファザーズクッキーが詰まっているのは、幸せな証拠でもあった。

実はこのクッキーにはちょっとした歴史がある。
パパが若い頃、といっても30代の頃に、アメリカで暮らしていたことがあってね。
アムトラック鉄道にのって、何度か、アメリカ縦断の旅をした。
ある日、テキサスのフードトラックのクッキー屋さんで食べたのが、テキサス・ソフト・カントリークッキーなるもので、そりゃあ、柔らかくて、食べた時にひっくり返った。
あんまり美味しいから、毎日、買いに行った。
黒人のジョージおじさんというパティシエと仲良くなり、この元になるレシピを、教わることに成功する。
でも、ジョージおじさんのレシピだと、僅かにサクサク感が強かった。
それも美味しかったけど、笑。
そこで、これをもっとしっとりさせてみようと研究に研究を重ねたのが「父ちゃんのケーキ・クッキー」ということになる。

父ちゃんの料理教室「父ちゃんのしっとりクッキーで育った息子! 辻家名物、ファザーズ・クッキー」



君はあの頃、毎日のように、クッキーを食べていた。
毎日食べても飽きないような工夫がしてある。
レシピにすると呆気ないものだけど、毎日、作っていると、だんだん、そのコツが分かってくるはず。
ジョージが言った言葉で忘れられない。
「世界中に美味しいものがある。でも、このアメリカン・クッキーだけはアメリカが世界に誇れる最高のお菓子なんだよ」ってね。
それは間違いないな!

材料
小麦粉180g、重曹小さじ半、ベーキングパウダー小さじ半、塩ひとつまみ、バター100g、卵(小)1個、グラニュー糖40g、カソナード100g、好みのチョコレート100g、あればバニラビーンズ少々(もしくはバニラエッセンス少々)

よし、まず、ボウルに材料表の中の粉ものを全部入れ、軽く混ぜておくべし。で、出来たら、これは、ちょっと脇に置いておいて、と。

別のボウルに、バターを溶かして、砂糖とバニラビーンズを加え、泡立て器でよく混ぜたら卵を加えツヤツヤになるまで一生懸命、さらに混ぜるんだ。
そしたら、そこに、先に混ぜておいた粉類の、まずは半量だけ入れ、いいかい? 半分だけだぞ。
スプーンでざっくり混ぜる。
「一回でやっちゃダメだ」って、ジョージおじさんが言った。
よくわからなかったけど、やってみてわかったのは、いっぺんにやると上手に丁寧にしっかりと、混ざらないんだよ。
だから、二回に分ける。
残りの粉類も加え、粉っぽさがなくなるまでしっかりと混ぜることがこのクッキー作りの一番大事なところになる。

父ちゃんの料理教室「父ちゃんのしっとりクッキーで育った息子! 辻家名物、ファザーズ・クッキー」



さてと、そしたら、そこに砕いたチョコレートを加え、ラップをして冷蔵庫で30分ほど寝かす。
冷蔵庫から取り出し、オーブン板にクッキングシートを敷いて、あればアイスクリームディッシャー、なければ大きめのスプーンで生地を掬って、間隔をあけてだな、並べていくのだけど、平べったくしないで、アイスクリームのワンボールを掬い取るような感じで、高さを出して並べなきゃいけない。

父ちゃんの料理教室「父ちゃんのしっとりクッキーで育った息子! 辻家名物、ファザーズ・クッキー」

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そして、オーブンに入れるのだけど、…。
いいか、次に、ここがポイントになる。
並べた生地の上に、覆うような感じで、クッキングシートをかぶせ、180度に予熱したオーブンで10分焼くんだ。
焼きたては柔らか過ぎて崩れやすいので、10分ほどそのまま放置し、粗熱が取れてクッキーがある程度固まったら、ケーキクーラーなどにのせて冷ます。
温かいうちに食べても良いし、ちょっと冷めてから食べても、しっとり感はかわらない。
翌日は電子レンジで10秒ほど温めるとチョコがトロっと溶け、ケーキのようなクッキーになる。
まさに、ケーキ・クッキーだ!
これは、やっぱり自宅で作るからこそのしっとり感が素晴らしい。そして、意外とこの柔らかさは長持ちする。あとは電子レンジでさらに美味しくだね。
さあ、喰うか!!

父ちゃんの料理教室「父ちゃんのしっとりクッキーで育った息子! 辻家名物、ファザーズ・クッキー」

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