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滞仏日記「アペロではない、アペロ・ディナトワールという人生の奥の手!」 Posted on 2021/12/04 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、パパ友でもあり、地元の村長みたいな友人、通称ふぐちゃん(本名、ヴァンサン)がアペロ・ディナトワールをしに我が家にやってくることになり、今日は、その準備に追われた。
まず、田舎から早朝、パリを目指し、市内のスーパーでアペロ用の食材などをたんまりと買い込んだ。
アペロ・ディナトワールとは、アペロ(アペリティフのこと)からそのままずるずると軽い夕食になだれ込むフレンチ・スタイル・・・。
ぼくのパリの自宅は水漏れが数か所でおき、天井崩落状態なので、恥ずかしくて人を招けるようなアパルトマンじゃないのだけれど、ふぐちゃんは地元の本当に親しい友人なので、「オミクロンが流行りつつある物騒な時代だから、家での方が安全だね」ということになって、急遽、パリで会うことになった。
(息子のこともちょっとは心配なので、様子を見に戻り、また週明けから田舎に舞い戻るシャトル生活なのであーる)

滞仏日記「アペロではない、アペロ・ディナトワールという人生の奥の手!」



ふぐちゃんの子供たちも来るかもしれない、ということになり、ちょっと多めに作ることにした。
フランス人の普通の家のアペロは本当に、出来合いのもの、チップスとか、チーズとか、クラッカーとか、野菜スティックみたいな簡単なものしか、出ない。
質素と言えば質素だけど、あまり気を遣わず気楽にやれるのでいい。
冷凍食品スーパーの「ピカール」とかには、アペロ用のスナック、ピサラディエールとか、小さなピッザとか、ブルスケッタとか、そういうものが詰まったアペロ・セットが売ってたりする、のだけど、父ちゃんは料理が好きなので、ちょっとだけ手の込んだものを拵える。
それでも、今日は田舎から戻らないとならないので、ある程度できているものを買い、工夫しての超簡単おつまみセットを作ることになった。
まず、スペインオムレツ風の巨大卵焼き。
これはフライパンで12個の卵(ダシとかニンニクとか各種オイルとか)を一気に混ぜ焼きにする。卵の煮汁が染み出す濃厚な、スパニッシュ・オムレツなのであーる。
どーんとテーブルに出すと、だいたいのお客人には受ける。
今日は明太子とアリオーリをブレンドして作ったオリジナルソースをかけた。
和とスペインの融合だね。

滞仏日記「アペロではない、アペロ・ディナトワールという人生の奥の手!」

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それから、ブルスケッタではないけど、簡単なオープンサンド風スナックも作った。
バケットを切って、その上に、ポルトガルのバカリヤウにマヨネーズで味付けしたものと生ハムやエビのカクテル、さらにはマスの卵などを載せて出す。
いつもは塩ダラから作るのだけど、今日は時間がないので、スーパーで売ってるバカリヤウを利用させてもらった。
うーん、仏とポルトガルの融合、みたいな一品である。
色がカラフルなので、お客さんはたいてい、驚いて、皆さん、笑顔になる。
見た目が、食欲をくすぐるのもいいね。
エビも買ったのに、載せ忘れた・・・。

滞仏日記「アペロではない、アペロ・ディナトワールという人生の奥の手!」

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それから、野菜は、ラディッシュにバターをつける、ラディ・ブールを作って出す予定だったが、これも、出し忘れた。
・・・・最近、買ったのに、出し損じることが多い。
あ、もろもろのスナック菓子も並べてみた。
今日はたまたま、制作会社長のLさんとDSスタッフさんからおすそ分け頂いた日本のスナック菓子が大量にあったので、セレクトして、出してやった。
かっぱエビせん、カズチー、柿の種、などである・・・。
ふぐちゃんは、日本文化好きなので、たぶん、はまることであろう。



こういうのをつまみながら、軽くアペロをするのだけど、フランス人は、話がながい・・・。
2時間とか当たり前なので、そこで、軽い食事を用意しておいて、彼のところの子供たちとか、うちの息子とかで、アペロの流れで、テーブルを囲んで食事となる。
20時くらいになったら、なんとなく、こう聞き出すのが、おしゃれなのだ。
「もう、こんな時間だから、ちょっとあるもの食べていかない? たいしたものはないけど、お子さんたちも呼んでさ、食べない? その方が便利ちゃうの?」
前に、田舎で知り合った韓国人の奥さんと仏人の旦那さんの家にアペロで呼ばれた時にも、この流れになり、なんとなく、そのままごちそうになってしまった。
「夕食、食べに来ない?」と切り出すと作る方も、招かれた方も、気負ってしまう。
でも、アペロからの、「飯食わない?」だと、気楽な料理で、OKなので、誰も疲れない。
食べたら解散という感じになるのも有難い。
ふぐちゃー――ん、(@^^)/~~~。

滞仏日記「アペロではない、アペロ・ディナトワールという人生の奥の手!」



ということで、ふぐちゃんたちには日本のカツカレーを作って出すことにした。
仕込んでおいて、あげるだけにしておくと、席を離れる時間が最短で済むから、これも便利なのだ。
しかし、普通のカツカレーではない。
前回、地球カレッジでぼくが作ったオニオングラタンスープのオニオンスープ部分をカレーのルーで伸ばしたソースをフィレミニオンのカツにさらっとかけた、極上のカツカレーなのであーる。
ちなみに、前日から、玉ねぎは仕込んでおいた。
田舎で仕込んで、タッパーに詰めて持って帰る、こういうところが、憎いね、父ちゃん。
まるでホテルの味なのだ。
口の超えたフランス人に受けないわけがない、と自信家の父ちゃんは、これをふぐちゃんの前に置いた。
すると、おおおおおおおおおお、とふぐちゃん、叫び声を張り上げやがった。
誰かが自分の料理に感動をしてくれること、美味しい時には、美味しい、と言って貰えることはやっぱり嬉しい。
うちの子が幼かった頃、お弁当を作ってやると、「うううううううーん、おいしいー」と唸ってくれていたけれど、最近はどんなに手が込んだものを出しても、しーん、なので実に張り合いがない。
あんまり、書くと叱られるので、ここまで、えへへ。
とまれ、アペロ・ディナトワールという手があるのでこの週末、お友達を気楽に招いてみてはいかがであろう。
気楽なもてなし、みんなお手軽にハッピーなのであーる。

つづく。

滞仏日記「アペロではない、アペロ・ディナトワールという人生の奥の手!」

※ 新キャラクター登場、ふぐちゃんでーす。



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