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滞仏日記、「フランス全土の休校に向けた、ぼくの心の備え」 Posted on 2020/03/13 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、不意にフランス全土の学校が休校になることが決まって、一夜明けた朝、とりあえず、息子に朝ごはんを食べさせ、おくりだした。問題はいつまでこの休校が続くのかということだ。4月4日から例年ならば2週間の春休みなので、きっと間違いなく、このまま来月の20日までは休みが続くことになりそうだ。多分、そこを計算に入れてこのタイミングで全土での休校措置となったのだろう。ということは5週間も息子は家にいるということであり、5週間、ぼくはあの子の世話をしないとならない。これは、シングルのおやじにとって、なかなかしんどいことである。

いつもなら4月は仕事で日本に帰る予定をいれているが、今年はたまたま、5月にオーチャードホールの延期ライブ(昨年10月が台風19号による)があるので、そこまでぼくはパリに残ることになっていた。こういう時期だから、家から出ないで子供の世話が出来るのは、まあ、助かった。とはいえ、息子も遊び歩けないらしく、学校から出来るだけ外出は控えるようにと通達が入っているし、少なくともレストランや中心地など人の集まる場所には行けない。もしかすると、感染が勢いを落とさなければ、来週にも、フランス全土もイタリアと同じようにレストラン、カフェ、クラブ、バーなどが封鎖されるのではないか。思えば、ジレジョーヌ運動と交通公共機関の長いストが続いてきたパリ(もともとはテロの頻発など)、ただでさえ観光客が減っていたところに、この状態なので、ホテルなどの観光産業は大打撃もいいところだろう。それは日本も含め、世界中一緒だろうけど、いやはや、凄いことになった。

滞仏日記、「フランス全土の休校に向けた、ぼくの心の備え」



ぼくはこれから食料を買いに行く。買い占めじゃなく、現実問題、5週間も息子が家にいるのだから食べさせないとならない。給食や学校の存在がどんなに助かっていたのか、シングルの親としては痛感する。子供たちが遊びに行けるならまだ気楽だけど、ずっと家にいて、学校から毎日宿題などがネットを通して届けられるようだ。詳しいことは息子が戻って来てわかることだけど、それでも、このような強力な感染力を持ったウイルスが徘徊しているパリ市内を子供たちがウロチョロしないで済むのは親としては助かる。息子には、出歩くなよ、と釘を刺しておいた。若くないパパが感染したら、辻家は崩壊するので、パパも絶対に感染出来ないんだ、と念をおしておいた。先のことはわからないけど、今はそういう状況である。



昨日、マクロン大統領が「70歳以上の人はあまり出歩かないでほしい」とコメントしていたので、恐怖を感じて従う人が増えるだろう。感染者がもうすぐ3000人になろうというフランスなので、全土の封鎖は時間の問題じゃないか、と思っている。イタリアが先行したけど、フランスとドイツ、北欧などが順に、梅雨入りならぬ、コロナ入りしていくのは目に見えている。なんでか、アジアのコロナよりも欧州の方が、威力が強い気がする。もしかすると種類がちょっと違うのかもしれない。死者の勢いが凄まじい。実はイタリアの医療技術は日本に引けを取らないくらい立派なので、短期間で千人を超える死者が出た理由が謎である。ぼくも若くないので、最大限の注意を払って、自宅で、おとなしく過ごすことになるだろう。買い占めをするというのじゃなく、そのために食料をある程度買わないとならない。共働きの家の人たちがまずはスーパーに足を向けることになるのか。シングルファザーのぼくも最低限の必需品を揃えないとならない。こういう時に、シングルは心細い、マジで…。で、実質問題買い出しの目安は来月20日までの最低限の分になる。世界各地の買い占めのニュースを見て、おかしいよな、と思っていたが、その心理は単純に批判出来ることじゃないなと思った。切実な家庭もたくさんあるのだ。家を預かる人間にとっては、状況を見ながら、出来るだけ買い過ぎない、社会に迷惑をかけない、でも、足りなくならないよう、判断をし調整していく必要がある。

今日は朝から、何が必要か、最低限必要なものを紙に書き出した。パリ市や学校や、国からの連絡を待ち、適切に行動したいと思う。この不意の休校の時間を利用して、ぼくは息子に料理とギターをアトラクションとして教えてみたいと計画している。彼の関心が料理と音楽に向かっているので、ちょうどいい。できるだけ明るい休校生活をおくらせてあげたい。どんな時にも、ポジティブを忘れないこと。どんな時にも家族ファーストで生きること、これがぼくの心の備え、かもしれない。

自分流×帝京大学