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滞仏日記「パリ・ゼロメトロ危機、フランス渡航注意」 Posted on 2019/11/03 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、昼ごはん時、息子が不意に、
「パパ、12月5日はどうなるのだろう。パリが全面ストップだね」
と言った。

息子の恋人エルザがパリに来れなくなったあのフランス国鉄(SNCF)の大規模新幹線ストが記憶に新しいが、12月5日から、パリ地域のメトロや路線バスやRER(近郊電車)などを管轄するパリ交通公団(RATP)がこれまた全面無期限ストライキに突入する。「ゼロメトロ、ゼロRER、ちょっとだけバスは動く」という状況だ。これはフランス人でさえかつて経験したことがないような大規模ストになるらしい。スト慣れしているこの国で、誰も経験したことがないストっていったいどんな?

パリと言えばメトロなのに、ゼロメトロとは実に恐ろしい言葉である。

とりあえず、この日はゼロメトロ状態らしいが、そこで労使交渉が妥結できない場合は、無期限ストに突入し、その先に何が待っているのか、誰にもわからない。退職条件の法律改正に対する労働者の不満が根っこにある。簡単に妥結しないのでは、というジャーナリストの意見もあり、中にはクリスマスまで続くかもしれない、という恐ろしい記事まで出た。

今日は久々、黄色いベスト運動がフランス全土で吹き荒れたが、ともかく人権を生んだフランスらしく、フランス人労働者はおれない。経営者側もおれない。ちなみにSNCFの経営者側が「ストはいいけど、ストしている間の給料は払いません」と発言し、労働者の強い反発を買った。ともかく、12月5日は相当凄いことになりそうな気配である。

そんな中、面白いニュースがある。パリ交通公団(RATP)はこのまま無期限ストに突入するとパリが大混乱になることから、UBERなどの配車サーヴィス会社や各種運送会社、ホテル業界などに、「何か市民を助ける方法がないか」とコラボを呼びかけた。一緒に手を組んでゼロメトロ危機を乗り越え、パリの交通マヒを和らげようというのである。焼石に水のような気もするが、それほどパリは混乱するというメッセージでもある。このタイミングでパリ旅行を計画している人はよほど気を付ける必用がある。さすがにクリスマスまでは続かない気もするけど、黄色いベスト運動はいまだ続いている。ここはフランス、侮れない。パリはどうなるの、という息子の不安こそ、まさに今のパリの空気感を現す言葉でもある。

「なんとかやっていくしかない。フランスはそうやっていつも乗り越えてきたし、権利は自分で勝ち取らないと誰も与えてくれないし、パパ、ぼくは理解はできるよ」
と15歳の少年は偉そうに言った。でも、きっと文句を言いながらも、パリ市民もあの手この手を使ってゼロメトロパリを耐えることになるのであろう。観光客の皆さんはこの時期、パリを離れる計画とか、何かの対策をとっておく必要があるかもしれない。 

     辻仁成DS特派員@パリ

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