PANORAMA STORIES

三四郎日記「あまりに恐ろしい怪物と出会って、びっくり仰天をした」 Posted on 2023/03/13 三四郎 天使 パリ

※ これは三四郎が我が家にやって来たばかりの頃、2022年の2月に書かれた日記であーる。見るもの触るもの全てに怖がっていた三四郎、ずいぶんと成長したものです。

吾輩は犬である。そしてパリとは実に恐ろしい場所である。
それでも、だんだんパリというところにも慣れてきたし、ムッシュはぼくにとってもうかけがえのない存在、なくてはならない存在になってきた。
というのか、一緒にいると安心するし、ぼくは毎朝、ムッシュが起きてくるのを今か今かと暗がりの中で、待ちわびているんだ。
灯りの消えた部屋で、ぼくは明け方にカカ(うんち)とピッピ(おしっこ)をシートの上でする。
褒めてもらいたいけど、夜中だから吠えちゃいけないのはもう分かっているから、鼻を鳴らして、くーん、くーん、していると、まもなく、ムッシュが起きてきて、
「よしよし、ちゃんと出来たんだね」
と頭を撫でてくれる。
そうやって、褒めて貰えるのも凄く嬉しいし、ムッシュに頭を撫でられ、自分を抑えきれず興奮している時の高揚感は、これまでにないものだった。
そうなんだ、それは安心感、・・・これは本当に素晴らしい気持ちなんだ。

三四郎日記「あまりに恐ろしい怪物と出会って、びっくり仰天をした」



ぼくはここに来る前、田舎の犬の園で、いつもいじわるをしてくる犬に不意に顔を激しく噛まれたことがあった。
それから、そこでは自分を出さないように小さくなって生きていた。
お医者さんにも行ったし、いつまでも傷みがとれなかったし、そのせいでご飯も思うように食べることができなかった。
また噛まれるかもしれないという恐怖があって、自分を殺して生きていかなければならなかった。
大勢の犬たち、共同生活の中での自分、不安・・・
でも、ムッシュに引き取られてからは世界が一変した。
ここは、別世界だと思う。
緊張することももう無いし、攻撃してくる相手も、噛む相手もいない。
優しいムッシュが傍にいてくれるので、寂しくない。
最初の夜は、さすがに不安で、一晩中、吠え続けたけれど、今はもう、ここにいる限り、ぼくは幸せなんだなって思うことが出来るからね、・・・吠えなくなった。
昨日も、一昨日も、ぼくはずっとムッシュの膝の上で寝て過ごしたし、サーモンのおやつも貰えたし、ずっとムッシュが一日中ぼくの面倒をみてくれるのだから、安心しかない。
ただ、散歩の時に、外の世界で、他の犬たちに会う時が、ちょっとだけ緊張をする。
あの時の恐怖を思い出してしまうから・・・。

三四郎日記「あまりに恐ろしい怪物と出会って、びっくり仰天をした」



一日に三回、ぼくはムッシュと2人で散歩に出る。
慣れてはきたけど、まだ、外の世界は安心できない。
とくに音が怖いんだ。車の音とか、工事の音とか、田舎は静かだったからね。
パリに来たばかりの時は、大きな音がするたびに地面に這いつくばって動けなくなっていたけれど、今は用心しながら、やり過ごすことが出来るようになった。
コンクリートやアスファルトの硬い地面にも慣れてきた。
青空の見えない灰色の世界にも慣れてきた。
でも、ムッシュが連れて行ってくれるあのエッフェルとかいう鉄の塔の周辺に広がる公園は、緑に囲まれていて、土も草もあって、聳える木々もあって、落ち着く。
ただ、他の犬がすごく多いのと、彼らがぼくを見かけると必ず近づいてくるので、警戒してしまうんだ。
昔のことを思い出して・・・。
ぼくはだいたい動かず、近づいてきた犬と対峙して、様子を見ている。
相手の出方が分からない。まずは、顔を近づけてくる。鼻先がぼくの鼻先に触れてくる。
でも、その次の瞬間、ぼくの脳裏をあの日のあの瞬間の噛みつかれた時のもの凄く嫌な記憶がよぎるんだ。
傷みの記憶が駆け抜ける・・・。
だから、ぼくは反射的に、近づいてきた見知らぬ犬に、噛みつこうとしてしまう。
「三四郎! ダメだ」
ムッシュが叱って、引っ張られる。
だって、思い出すんだよ。あの日のことを。ぼくは血を流した・・・。
「三四郎、なんで噛みつこうとするんだ? そんなんじゃ、誰も友だちになってくれないよ。みんなすごく優しいのに。困ったやつだ」

三四郎日記「あまりに恐ろしい怪物と出会って、びっくり仰天をした」



そういえば、昨日、ものすごく恐ろしいことがあった。
夕食が終わった後、ムッシュはぼくを散歩に連れ出した。
家の近くに大通りがあって、そこを2人で歩いていたら、大きなモンスターのようなトラックが恐ろしい音を立てながら、近づいてきたんだ。
それは、本当に恐ろしい光景だった。
トラックの後ろに大きな口が開いていて、歩道に置いてある緑の箱を次々食べていくんだもの。ぼくは驚き動けなくなった。
車から降りてきた怪物の手下たちが歩道の緑の大きな箱をその怪物の後ろの口に差し出していくと、その怪物の手がそれを掴んで大きな口へと運び、中に入っているものを次々食べていくんだ。
食べ終わると、緑の箱が男たちに戻されて、その男たちは食べられて空っぽになった緑の箱を歩道に放り投げていく。
その怪物トラックは次々に緑の箱を食べていくので、ぼくも食べられると思って、ぼくが不意に走り出したら、ムッシュが、
「三四郎、三四郎! 待てよ」
と叫んで追いかけてきた。
でも、ぼくは止まらない。
リードを引っ張られても、振り切るように全速力で走ったんだよ。
ずっと走り続けた。どこまでもどこまでも・・・。
恐ろしい怪物から逃げ切るために・・・。
そのトラックが見えなくなるまでぼくは何度も背後を振り返りながら走った。なのに、ムッシュは笑いながら、追いかけてくる。
「三四郎。大丈夫だから。待てよ、ストップ!」
ムッシュが笑いながらぼくを抱き上げ、ぎゅっとしてくれたので、やっと自分を取り戻すことが出来た。
ぼくはムッシュの腕の中でじたばたした。
あの怪物が追いかけてこないか、何度も後ろを振り返りながら。
でも、気が付くと、パリは再び静まり返っていた。
遠くで、あの鉄の塔が光って、青白い光線を空に向けて放っていた。
パリというところはまことに恐ろしいところである。
まだまだ、安心はできないものばかりなのだ。
でも、少しずつ、きっと慣れていくしかない。
ムッシュの腕の中で、ぼくの都会生活は続く・・・。

つづく。

三四郎日記「あまりに恐ろしい怪物と出会って、びっくり仰天をした」

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Posted by 三四郎

三四郎

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2021年9月24日生まれ。ミニチュアダックスフント♂。ど田舎からパリの辻家にやってきた。趣味はボール遊び。車に乗るのがちょっと苦手。