PANORAMA STORIES
アンティーク小物とか、家具とか古いものが好き Posted on 2026/05/07 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
フランスで暮らしだしてはや25年超、骨董品に愛着を覚えるようになりまして、けっこう、気が付けばアンティーク市とかに、顔を出すようになりました。
趣味のないつまらない人間ですが、あえて趣味かもしれないと自慢できるものが、欧州の古い家具を集めることでして、家の中は渡仏後にこつこつと集めたアンティーク、骨董家具で溢れています。
かといって、投資目的とかではなく、自分の好きなものに囲まれて暮らしたいというだけ、でして・・・。
だから、なんでもいいんです。ガラクタでも、年季の入ったものであれば。
古いワインボトルとか、古い看板とか、古書とか、古い箱とか、古いがらくた、でも、味があるものであれば、なんでもいい。
真新しいモダンなものは、よっぽどセンスがよくないと手に取らないようになりました。デザインされ過ぎたものって、居心地が悪くて、笑。
だから、アトリエや仕事場はどこかアンティーク屋敷のようになっています。
落ち着くんですよね
友たちの家に行っても、同じ趣味の人のところが、やっぱ、居心地がいい。
なんていうのでしょうね、そういう人は、「時間をインテリアにしている」、といつも思うのであります。
そう、時間をインテリアにする、これ素晴らしいじゃないですか。
だから、アンティーク巡りはぼくの趣味といってもいい。で、気に入ったものがあったら、手を伸ばし、財布を開く・・・。
フランスの田舎が好きなのは、多分、近代的な生活があまり全面に出てこないからかもしれない。
そもそも、田舎の人は、アンティークとかいう概念がないから、新しいものも古いものも、上手に同居している。家も、道も、すべてが古い、そこも素敵。
暮らしぶりが、時間に追われてないので、そもそもアンティークなのであります。


ぼくのアトリエにある、脚立ですが、これ、古い古い脚立なんですよね。それをグレーのペンキで塗って、仕事空間になじませています。
そして、その足場に、絵の具とか、パレットナイフとかは並べると、素敵、じゃないですか?
こういう暮らしの中で、創作をしているんです。

ぼくの寝床の窓から見える景色ですが、すべてアンティークです。落ち着きます。日本でも、歴史のある街がいいですよねー。ぼくは函館で中高を過ごしたので、あそこも、アンティーク!

骨董市のことをブロカントと呼びます。
趣味と言えるかわからないけど、ブロカントを巡って、ちょっとしたものを買うのが趣味のないぼくにとっての最大の趣味かもしれません。
それが安いんですよ。100年前の新聞とか、1ユーロとか、で買えます。
最近は、バターナイフ、それも銀製の、を集めることにささやかな喜びを感じているんですが、バターナイフだけで、10本くらい、あります。
バターナイフって奥が深くて、角度とか、持った時の握った感じとか、いいバターナイフに出会うと思わず微笑みが零れてしまう。
骨董品じゃなくても、アルチザン(職人)が先代から技術を受け継いで作ったようなものがやっぱ好き。気が付くと購入してしまい、息子に、「パパ、バターナイフばっかり集めてどうするの?」と怒られてました。
バターナイフ、されど、あなどれないですぞ。


で、ロックダウンになる前のことだけど、ふらりと入ったダノア(デンマーク人)のアンティーク屋さんで椅子に一目ぼれして買ってしまったんですが、最近では、三四郎の椅子になりました。
まず、その佇まいにやられたんです。
古いシボレーの、60年代のアメリカ映画に出てくるような車のシャーシを思わせるフォルム、特に、独創的とか個性的ではないけれど、おお、そこにいたのか君、と思わせる雰囲気とか気配に満ちていて、心を擽られたわけです。
材質はパリサンドル(ローズウッド)で、結構重厚感がある。修復済みで、生地も全て張り替えられています。
申し分のない状態で、ひきとられるのを待っておりました。
値段も、アンティークとは思えないような高くもなく安くもない適価だったからか、気が付いたら買っていたわけです。
☆
座った時の、ぼくの背中とその椅子との角度が見事で、座り心地がいいのは当然だけど、他の椅子たちにはない、いつでもすぐに立って歩き始められるような角度が最高でした。
ゆったりできるクラブ椅子とは違って、いわば、ちょっとだけ、腰かける、椅子かもしれません。
ちょっと座って、サッと何かをして、また立ち上がるための椅子・・・。
眩い光りの中に腰かけ、僕は新聞とか雑誌をめくる。
三四郎と奪い合っています。


こういうアンティークの椅子というのは、かつて誰が座っていたのかということを想像させてくれることがまず素敵ですよね。
特に珍しい椅子なので、それだけの愛着を持った人がオーナーだったはず。
その人から何かの意志を受け継がれたような気持ちにさえなります。そこにいない誰かと、午後のひだまりの中で、小さな会話が出来るような気がするのも素晴らしい。
古い本を読むにも相応しいし、香り豊かなコーヒーを飲みながら、目を閉じて、受け渡された歴史に思いを巡らすことも、アンティーク椅子の良いところかもしれません。
古い家具を集めたからといって、それをあの世に持っていけるわけではないのですが、この時代まで生き残った何かが、その椅子には宿っているので、ここに座ることでこの現世をまず穏やかにいつくしむこともできる。
そして、その椅子はいつか、息子のものになるかもしれません。
受け継がれていくもの。
そこに腰を下ろす瞬間の、なんともいえない喜びを、ぼくは幸福と呼びたいですな。えへん。幸せです。
この椅子に座って、プルーストとか読んじゃう、あはは。

近況のようなもの。
とにかく、早くすべての絵を日本に送りつけたいのですが、最初のやつが、まだ、つかないんですよ。すごくないですか? 成田に到着しているんですが、今日配達となっていたのに、まだつかない・・・。
あはは。
だから、次のが発送できないでいるんです。やっぱり、ちゃんと届いたことを確認したないと、ね。
明日かな、ゴメスさん、いい連絡お待ちしています。
ここ最近は、パステル、木炭などを描いています。今日はロバート・キャンベルさんとラインですこしお話をしました。いい人ですよ。落ち着きます。
1万キロも離れているのに、便利な時代ですよね。
明日は、梱包をしながら、日本時間の20時から、日本画家の釘町さんの授業。TPAはこれで講師10人が一巡することになります。学びは、大事だな、と人の授業を眺めながら思う今日この頃です。一生、学ぶことがありますね。
☆
8月5日から、いよいよ、日本で個展がスタートします。三越日本橋本店、特選画廊で、11日まで。63点、堂々の展示、予定です。祈る。
10月22日から、コンコルド広場のアートフェアに参加。15点くらい。
11月5日からリヨンで個展です。30点程度、詳しくはまた、のちほど。
☆
そして、父ちゃんの音楽ですが、いかが? こちらをクリックね。
☟
https://milestone.tunecore.co.jp/milestones/LeYwbu7hEfgPWl7dPcp7?category=artist_ugc_play_count
Posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。




