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バルセロナの拡張地域 〜美しきアシャンプラ〜 Posted on 2019/05/27 林 真弓 通訳・ガイド・イベントコーディネーター バルセロナ

私たちが住んでいるのはバルセロナのアシャンプラ地区。19世紀になってからできたエリアだが、日本でいうと幕末、明治だから新市街というには古すぎ。”拡張地域”と呼ばれている。

現在旧市街と言われている場所、500haほどの小さなエリアだけが19世紀半ばまでバルセロナだった。カタルーニャ広場から海までの区域で、城壁に囲まれていた。車などない時代にできているので、道は細く入り組んでいる。ローマ時代の壁や柱、13〜15世紀のゴシック建築、20世紀のネオゴシック建築などが残っていて、中世にタイムスリップしたかという錯覚に陥るほど、昔の街並みが残っている場所もある。
 

バルセロナの拡張地域 〜美しきアシャンプラ〜

バルセロナの拡張地域 〜美しきアシャンプラ〜

今ではこの歴史的でロマンチックな旧市街も19世紀初頭は危機に陥っていた。産業革命の影響で都市人口が急増し、城壁の内側に工場と労働者の住居が隣接して造られた。とにかく人口に対して壁の中の面積は小さすぎた。当時の人口密度は1ヘクタールにつき896人。同時期のパリは1ヘクタール400人以下だったから、倍以上の混み具合だ。工場のすぐ隣に集合住宅が有ったりするので水環境も悪い。狭い地域に多くの人が住むのだから建物の高さは高くなり接近し日照条件もすこぶる悪い。病気が流行り、平均寿命が大幅に縮んだ。

壁を取り壊して街を拡張してもよいと政府から許可が出たのが1854年。イルデフォンス・セルダという土木技師による都市計画案が採用された。狭くて暗い旧市街に住んでいたバルセロナ市民を解放すべく、道は広く、建物の高さは20m以下、日照性と通気性を十分に考えた街づくりが行われた。きれいな碁盤の目状に区画整理され、1区画は約133m。裕福なエリア、そうでないエリアができないように、どこに住んでも同じ条件が得られるようにと考えられた。1区画ぐるりの正方形を1街区と呼び、25街区に1つ学校、100街区に1つ市場、400街区に1つ病院、というように市民が同じ条件を享受できるようにと設計されたのだ。
 

バルセロナの拡張地域 〜美しきアシャンプラ〜

壁を壊して最初にできたのが旧バルセロナとグラシア村を結んでできたグラシア通り。現在のメインストリートだ。ガウディのカサミラ、カサバトリョだけでなく、その当時のブルジョワたちが建てさせた魅力ある建築が通りを彩る。そしてそれはグラシア通り以外の通りにも広がっていく。どの道にも街路樹が植えられ、当時流行のアールヌーボー調の集合住宅が建ち並ぶ。交差点の角は、見通しと風通しのために斜めに切り取られる。江戸時代末期にここまで考えた街づくりをしたのだ。彼らの考えた街は今でも立派に機能している。当時は「つまらない」との批判もあったグリッド式の区画も、最近になってその合理性を見直されている。アシャンプラに住んでいると、19世紀半ばの人たちの新しい街に向けた夢と希望を感じるのだ。部屋の窓からのぞく街路樹の緑、通りを歩いていて楽しめる青い空、海からの気持ちよいそよ風。広く歩き易い歩道。バルセロナ市民が夢見た生活を外国人の私が今享受している。
 

バルセロナの拡張地域 〜美しきアシャンプラ〜

昔に比べたら随分広くなったが、それでもバルセロナはコイセオラの丘と地中海の間に挟まれた限られた地域である。100㎢に160万人が住んでいるから、ほとんどが集合住宅だ。一軒家は滅多にない。面白いのはこの集合住宅の一軒一軒がまるで昔の日本の長屋を彷彿させるものだということだ。少なくともうちはそう。引っ越してきたばかりの私たちに、エレベーターで一緒になった隣人は口々に「~階の~番に住んでるので、困ったことがあったらいつでも来てね。」と声をかけてくれた。いつもパンを持ってきてくれる80歳のおばあちゃんがいて、私たちがいないときはドアにパンの袋がかけられている。最上階に住んでいる女性は子供の頃からこの建物に住んでいて、サグラダファミリア周辺がどんなに変化したかをいつも話して聞かせてくれる。アシャンプラでの生活は、都会の中心部にありながら隣人の温かさが感じられる、尊い生活なのだ。
 

バルセロナの拡張地域 〜美しきアシャンプラ〜

 
 

Posted by 林 真弓

林 真弓

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Mayumi Hayashi
通訳は主に英日だが、使用可能言語は、日、英、伊、西、仏。
オーストラリア、キャンベラ大学で応用言語学の修士号を取得したのち、地元岡山の大学にて英語非常勤講師。英語以外の言語を学びたくなり、32歳でフランス、トゥールーズに語学留学。その後イタリア、ベネチアで約9年の滞在を経て、現在バルセロナ在住。イタリアで知り合ったイギリス人の夫とスペインに住む、という??な、でもある意味非常に欧州的な状況を楽しむ毎日である。