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愛すべきフランス・デザイン「空気で形作るモノのデザインと膨らむアートPOP AIR」 Posted on 2022/08/06 ウエマツチヱ プロダクトデザイナー フランス・パリ

愛すべきフランス・デザイン「空気で形作るモノのデザインと膨らむアートPOP AIR」

 
最近、空気で形作るモノのデザインが気になっている。
例えば、マッサージグッズ。
かつてはロールがゴロゴロと移動するものが主流だったが、空気の膨らみで圧をかけて、マッサージする製品が増えている。
自動車のシートに内蔵されるマッサージ器も、ロール式から空気が膨らむものになって久しい。
技術が発達して、空気を閉じ込めコントロールすることができるようになり、製品として実用化されるまでに至った。
 

愛すべきフランス・デザイン「空気で形作るモノのデザインと膨らむアートPOP AIR」



 
他にも、フランスで流行っている最新のテントは、スポーツメーカーDecathlon社が開発した、空気で膨らむタイプのもの。
キャンプ初心者をターゲットにしたもので、簡単に組み立てられ、爆発的な人気を博している。
今、フランスのキャンプ場に行くと、このテントばかりが目につく。
キャンプ場で使っている人、何人かに声をかけたところ、「以前からキャンプをしてみたかったが、テントの組み立てに不安があって躊躇していたが、これはカンタン」と、一様に同じ意見だった。
破れてしまったときの補修キットが付いているのも、安心だという。
 

愛すべきフランス・デザイン「空気で形作るモノのデザインと膨らむアートPOP AIR」

※フランスで大人気の空気で膨らむテント

愛すべきフランス・デザイン「空気で形作るモノのデザインと膨らむアートPOP AIR」

※Decathlonの店舗での展示

地球カレッジ



 
さて、そんな技術革新と共に自由度が増えてきた「空気で膨らむモノのデザイン」。
今、空気で膨らむモノのアート展「POP AIR」がパリで開催されている。
ここ数回、番外編としてイタリアのデザインについて触れてきたが、図らずとも、この展覧会もローマにある「Balloon Museum」共催のものだった。
 

愛すべきフランス・デザイン「空気で形作るモノのデザインと膨らむアートPOP AIR」

※暑い日が続くパリで、水に触れられるアートは魅力的

 
入り口から、子どもの心をわしづかみにする、不思議なキャラクターに、光と音、そして、流れる水。
建物に入る前から、ここでかなりの時間、楽しめた。
そこから次の空間に移ると、いきなり一番の話題作、ボールプール「HYPERCOSMO」に突入する。
大人の膝上ほどの高さまで、ボールが一面に広がっている。
使い捨ての靴カバーを渡され、着用が必須という気遣いも。
数分毎に繰り返される光と音のプレゼンテーションに、大人も子ども狂喜乱舞。
とにかく写真映えする空間で、みんな携帯電話を片手に撮影を楽しんでいる。
ボールプールの中で、うっかり携帯電話を落としてしまう人も。
係りの人と一緒に一心不乱で探す人たちを見かけたが、ここでは日常茶飯事だろう。
 

愛すべきフランス・デザイン「空気で形作るモノのデザインと膨らむアートPOP AIR」

※大人も子どもも楽しい巨大ボールプール



 
そして次が、煙を含んだ不思議なシャボン玉が溢れる空間「A QUIET STOERM」。
乳白色に輝くシャボン玉は、割れると、フワッと魔法のように煙が立ち込める。
ミステリアスなトンネルを抜けると、落ち着く間もなく、バルーンアートと写真撮影できる小さなブースがいくつも並ぶ場所に出る。
あまりの目まぐるしい展開に、展覧会の全体像を確認しようとしたところ、なんと5000平方メートルもの展示空間があることに気付いた。
 

愛すべきフランス・デザイン「空気で形作るモノのデザインと膨らむアートPOP AIR」

※煙を含んだ不思議なシャボン玉

愛すべきフランス・デザイン「空気で形作るモノのデザインと膨らむアートPOP AIR」

※カラフルな撮影ブースがいくつも並ぶ



 
その中でも、特に印象的だった作品は、カリーナ・スミグラ=ボビンスキーが制作した作品「ADA」だ。
透明な巨大ボールには木炭の突起が付いていて、ボールが真っ白な壁や天井に当たる度に、線が描かれていく。
ボールを弾くと、空間をフワフワと漂うのは、ヘリウムガスが充填されているから。
この作品は、1842年に最初のコンピュータプログラムを作成したエイダ・ラブレスへの敬意を表して作られたという。
ボールに対しての人の動きがデータ、そのデータを受け取ったボールが壁に描くのがコード、ということだそう。
これもまた、子どもに大人気の作品だったが、突起を握りしめた子どもたちの手は真っ黒に。
作者は、公式ビデオで「作品を見る人が参加することで完成するアート」と語っていたが、真っ黒になった手に驚く子どもたちは、作品を通じて間接的に作者から何かを受け取っているかのようだった。
 

愛すべきフランス・デザイン「空気で形作るモノのデザインと膨らむアートPOP AIR」

※作品を見る人が参加することで完成するアート「ADA」

 
全てアーティストによる作品なのだが、勢いのある没入空間は、まるでアトラクションのようで、それを忘れてしまう。
これほどにも、身体を使って楽しめるアートがあったかと思わせる展覧会だ。
空気という掴みどころのない物体を、技術で閉じ込め、形作ることで、アートも親しみやすくなる。
空気を使った製品がくれるワクワク感を、私もデザインに取り入れてみたくなった。
 

愛すべきフランス・デザイン「空気で形作るモノのデザインと膨らむアートPOP AIR」

※5000平方メートルもの展示空間

自分流×帝京大学
第6回 新世代賞作品募集



Posted by ウエマツチヱ

ウエマツチヱ

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tchie uematsu
フランスで企業デザイナーとして働きながら、パリ生まれだけど純日本人の娘を子育て中。 本当は日本にいるんじゃないかと疑われるぐらい、日本のワイドショーネタをつかむのが速い。