PANORAMA STORIES

本がますます売れるイギリスで今年も盛況 ロンドン・ブックフェア Posted on 2017/03/28 清水 玲奈 ジャーナリスト・翻訳家 ロンドン

本がますます売れるイギリスで今年も盛況 ロンドン・ブックフェア

46回目を迎えたロンドン・ブックフェア。
フランクフルト・ブックフェアに次いで世界的に重要な本の国際見本市です。

今年は3月14日から3日間、130か国あまりの出版社、ブックエージェント、作家、それにジャーナリストら業界関係者が集って開催されました。
 

本がますます売れるイギリスで今年も盛況 ロンドン・ブックフェア

私は毎年、日本で著書を出していただいている出版社の社長さんと一緒に、会場の各出版社のブースを周ります。
版権買い付けのお手伝いです。
イギリスをはじめ、フランス、イタリア、アメリカなどの国の出版社の人たちと会って、本国で出版されたばかりの本や、これから出版される本についての説明を聞くのは、宝探しのようでとても楽しいものです。

こうした欧米の出版社の人たちとは、ロンドンとフランクフルトで半年おきに30分ほど会うだけなのですが、お互いに好きな本について、毎回中身の濃い話をするせいか、まるで親しい友人どうしのおしゃべりのように盛り上がります。
 

本がますます売れるイギリスで今年も盛況 ロンドン・ブックフェア

中でも私が会うのを楽しみにしている一人が、クオリティーの高い写真集を出している小規模出版社「パパダキス」で自ら企画・編集・販売を手掛けるアレクサンドラ・パパダキスさん。
ブースのデザインもファッションもおしゃれ。趣味はロボットの収集で、今は自らロボットの本を作っているところ。
お父様は建築家のザハ・ハディッドと親交があったというお家柄で、ロンドンから1時間ほどの郊外のお屋敷に暮らしています。
「ゲストルームにコレクションを並べて、ロボットルームと呼んでいるのですが、家に泊まりに来た母が、無数のロボットに見つめられているみたいだと言っていたわ」といたずらっぽい笑顔で話してくれました。
 

本がますます売れるイギリスで今年も盛況 ロンドン・ブックフェア

本がますます売れるイギリスで今年も盛況 ロンドン・ブックフェア

美術書や建築書の大手「ローレンス・キング」の社員であるバーニー・デュリーさんも、素敵な人です。
作家、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の子孫にあたり、かつて松江を訪問した際に地元の新聞に出た記事を見せてくれたこともあります。

彼が住んでいるのは詩人・デザイナーのウィリアム・モリスが暮らしていたロンドン北東部のウォルサムストウ。
そこから中心部イズリントンのオフィスまで自転車通勤するスポーツマンです。
フランクフルト、ロンドン、それにボローニャの3大ブックフェアすべてに定期的に参加していて、昨年のフランクフルトには自転車で行こうとして社長に「間に合わないと困る」と止められたとか。

3つのブックフェアの違いを尋ねると、「フランクフルトはビジネス。ボローニャは楽しみ。ロンドンはそのどちらでもない」と英国流の自虐的ジョークを披露してくれました。
 

本がますます売れるイギリスで今年も盛況 ロンドン・ブックフェア

世界的な出版不況と言われるようになり、また電子書籍が出回るようになって久しいですが、少なくともイギリスでは本のマーケットが盛り返しています。今回のロンドン・ブックフェアで発表された統計によると、イギリスでは昨年、紙の書籍の売り上げが7%も増加(一方で電子書籍の売り上げは4%減)。しかも、その原動力になったのが、若い年齢層での売り上げの伸びだそうです。

また、アマゾンなどの通販ではなく本屋さんに足を運んで本を買う人が増えていて、実店舗での本の売り上げは4%増えました。そんなこともあってか、今回のブックフェアでは、こちらの出版社の人たちの表情もとりわけ明るく見えました。
 

本がますます売れるイギリスで今年も盛況 ロンドン・ブックフェア

「なぜ本を読むのか」という質問に答えるのは難しい時代です。
娯楽ならいくらでもあるし、情報を集めるだけならインターネットやデータベースがあります。
カリフォルニアには紙の書籍を置く図書館を廃止した大学があると聞きます。

でも、1冊の本には、著者・写真家・翻訳家・編集者・校正者・装丁家、そしてそれを流通させる出版社の人たちの知恵と情熱がぎっしりと詰まっています。
そうした本と、本を取り巻く魅力的かつ有能な人たちに出合えるブックフェアは、「ビジネスであり、楽しみでもある」というのが本当のところかもしれません。
 

Posted by 清水 玲奈

清水 玲奈

▷記事一覧

Reina Shimizu
ジャーナリスト・翻訳家。東京大学大学院総合文化研究科修了(表象文化論)。著書に『世界の美しい本屋さん』など。ウェブサイトDOTPLACEで「英国書店探訪」を連載中。ブログ「清水玲奈の英語絵本深読み術」。