PANORAMA STORIES

こういう時こそ本を読もう Posted on 2020/03/15 清水 玲奈 ジャーナリスト ロンドン

3月中旬に予定されていたロンドン・ブックフェアは中止になり、出版社からは「オンライン・ミーティングで新しく出版される本の紹介をしたい」と提案するメールが相次いで届いている。イギリス政府は3月12日、新型コロナウイルスに関する新たな指針を示した。これまでの「感染拡大を食い止める」段階から「遅らせる」段階に入ったという。
イギリスでは休校措置は(まだ)とられていない。B B Cの報道によると、休校にすれば、子どもがいる医療スタッフの勤務に支障が出る上、重篤化のリスクがある高齢の祖父母が子どもを預かるケースが増えることを考慮しての判断だ。娘が通う小学校からは、登下校時に先生と握手する習慣をやめ、ウイルスの流行について勉強し、手洗いを励行し、「子どもたちが冷静に、安心して学校生活が送れるようにする」というお知らせがきた。
そして、いつもロンドン・ブックフェアと前後して行われる「ワールド・ブック・デー」は、例年通り実施された。もともとはユネスコが始めたイベントだが、イギリスでは書店協会などの呼びかけで、3月に独自のイベントを全国の学校と書店で実施している。
 

こういう時こそ本を読もう

娘の学校では毎年、子どもたちが好きな本の登場人物の仮装をして、その本を持って登校する習慣がある。私は娘に『かいじゅうたちのいるところ』の主人公、マックスになることを提案してみた。お母さんに怒られて家出し、ついに怪獣の島の王様になる男の子は、万年反抗期の娘にぴったりのキャラだ。しかも、マックスが着ている動物の着ぐるみのようなつなぎを持っているから完璧だと思ったが、娘はすぐにその案を却下。結局、『アンジェリーナはバレリーナ』の主人公のバレエ好きなネズミを選んだ。アイライナーで鼻の頭を黒くし、ひげを描いて、丸い耳をつけたカチューシャをするとかなりネズミっぽくなる。いつものバレエのお稽古着をグレーのTシャツとレギンスに重ね着し、鏡の前でポーズをとると、娘はご満悦。小道具の魔法の杖とアンジェリーナの絵本を持って、勇んで登校した。
 



こういう時こそ本を読もう

学校に着くと、まるでコスプレのイベント会場のようだった。女の子は人魚姫やプリンセスが圧倒的な人気。男の子は恐竜や宇宙人、ハリー・ポッターなど様々だ。そしてこの日は子どもだけではなく先生たちも全員、思い思いの仮装で登場する。校長先生は不思議の国のアリスの白ウサギに扮し、顔にはひげを描き、大きな時計を首から下げて校門に立っていた。いつもは全身モノトーンでシックに決めている担任の先生は、青いギンガムチェックのミニワンピース姿で『3びきのくま』の女の子になりきって、子どもたちを教室に迎えた。この日学校では一日仮装で過ごし、先生による読み聞かせや本の紹介、自分で読書をする時間を楽しんだという。
 

こういう時こそ本を読もう

こういう時こそ本を読もう

イギリスのワールド・ブック・デーの主催団体は、目標として「好きな本や作家の世界に子どもたちを引き込み、さらに多くの本や作家を発見して好きになってもらう」とともに、「すべての子どもに本を持たせること」を掲げている。学校でのイベントのほかに、1ポンドの図書券を子ども達に配布して、特別に用意した1ポンドの本を地域の書店で購入してもらう活動が行われている。低所得世帯の子どもは、家に一冊も本がないケースもあり、このおかげで初めて本屋さんに行き、自分の本を手に入れる子もいる。
 

こういう時こそ本を読もう

イギリス国内では先頃、独立系書店の数が2019年まで過去3年連続で増えたことが、明るいニュースとして歓迎された。人気の本屋さんに共通するのが、児童書の売り場に力を入れていること。カーペットや小さな椅子を置き、人気のキャラクターのポスターを貼るなどして子どもにとって居心地の良い空間を作り出し、読み聞かせや絵本作家によるワークショップなど子ども向けのイベントも頻繁に行う。ある書店員さんは、「子どもが本に夢中になると、親も読書の楽しさを再発見する」という現象を語ってくれた。未来の読者を育てる業界の努力が、実を結びつつある。
そして、本のすばらしさは、ありとあらゆるテーマが見つかるということだ。目に見えないウイルスや病気についても、絵本を通してなら小さな子どもも理解できる。我が家でも絵本でおさらいをしたところ、4歳の娘が自分からちゃんと手を洗うようになった。
 

こういう時こそ本を読もう

イギリスの国家医療サービス(N H S)のホームページでは、せきや熱の症状が出た場合は7日間の自宅隔離を求めるとともに、その具体的なノウハウを説明している。家に長期間こもるのはストレスや孤独感につながりかねない。「体と同じくらい、心についてもケアすることが必要」として、料理や映画鑑賞とともに勧めている活動が、他ならぬ読書だ。大人も子どもも読みたい本を、備蓄品リストに加えよう。
 

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Posted by 清水 玲奈

清水 玲奈

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Reina Shimizu
ジャーナリスト。東京大学大学院総合文化研究科修了(表象文化論)。著書に『世界の美しい本屋さん』など。ウェブサイトDOTPLACEで「英国書店探訪」を連載中。