PANORAMA STORIES

「テレワークママの、育児と夫婦愛のはざまで」 Posted on 2020/06/03 尾崎 景都 日本語教師 パリ

フランスの外出禁止令が解けてしばらく経つが、未だテレワークが強く推奨されている。
3月17日のロックダウン以降、私もPCを自宅へ持ち帰りテレワークをしている。料理人の夫はレストラン閉鎖により強制休職中、2歳娘が通っている保育園は5月11日から人数制限付きで再開したものの、感染リスクを考えまだ通わせていない。

同じ境遇の家庭は世界中にたくさん存在していると思うが、聞き分けがいいわけでもない2歳児と缶詰め状態でのテレワークを想像してみて頂きたい。この子の世話をしながら、会社で仕事をする時と同じ集中力を発揮することは不可能に近い。
まず、持ち帰ったPCが2歳児の格好の遊び道具となる。手の届かないカウンターの上に置くも、知恵をつけ始めた2歳児は、踏み台を持ち出してきてよじ登り触ろうとする。

「テレワークママの、育児と夫婦愛のはざまで」



テレビ会議が始まろうものなら私の座っている椅子に身体をねじ込んで覗こうとする。キーボードを叩き、覚えたての言葉を駆使して、おしゃべりしてくる。引き離そうとする夫の手を払いのけ、イヤイヤと号泣する。娘の泣き声が響き渡れば、しばしZOOM会議も中断となる。

仕事が思うように進まない私もストレスが溜まるが、急に家事育児のメインを任された夫も相当な負担になっている。その上、娘はませている。おしゃべりが少しずつ上達し、自我も育ち、反論もする。道理が通っていないことがほとんどだし、言葉で伝えるのが無理だと悟るとぐずって泣いて訴える。甘やかして何でも与えるわけにはいかない。テレワークと育児を両立させようと試行錯誤の連続なのだ。ロックダウン中は、「じゃあ外に連れ出そう」ができず本当につらかった。いっそのこと、私も仕事が休みになってしまったらどんなに楽かと何度も思った。(ロックダウンでもテレワークはやらなければならなかった)ぐずる娘を一生懸命なだめる夫の辟易した声を背中で聞きながら申し訳ない気持ちでいっぱいになり、仕事を放り出して夫にかわり娘と遊んであげたい、でも勤務時間を守らなければならない、というジレンマに頭を抱えたこともある。

私は仕事より家庭が一番と考える。仕事が上手く回っていても、家庭が上手く行っていなければ意味がない。そこで、テレワーク中であろうと、死守すべきポイントを決めた。
まず、昼ご飯、夜ご飯は必ず一緒に食べる。料理は夫が率先してやってくれるので、配膳などを娘と一緒に手伝い、みんなそろって「いただきます」をする。シンプルだが、とても大事なことだ。

そして、夫が限界に近いと感じたら、緊急の仕事を先に片付けてからしばらく休憩時間とし、夫にかわり子供と向き合った。結局子供の機嫌が戻らなかったとしても、今子供を見ているのは自分だけではない、世界中に同じ思いで働いているお母さんがいる、と自分に言い聞かせて頑張った。それだけでもストレスが大分軽減するものである。

「テレワークママの、育児と夫婦愛のはざまで」



最後に、娘が寝た後は、お互い「今日も育児お疲れ様」「仕事お疲れ様」と労り合う。「僕は大変だ」と言われると売り言葉に買い言葉、「こっちだって大変なんだよ」と言いたくなるが、「お疲れ様、ありがとう」と言われれば「こちらこそ、いつもありがとう」という気持ちになるから、不思議だ。日中溜まったストレスも、この声の掛け合いで、なんとか持ちこたえることが出来てきた。

と偉そうに語ったが、この生活になって既に2ヶ月半。夫の家事育児は日に日にスキルアップしている。そして娘は日々着々とパパっ子にシフトチェンジしつつあるのだ。
「パパとお出かけする、ママはおうちねー」と言い残して、あっさり外出する娘に少し寂しさを覚えながらも、私のテレワークはもう少し続くことになるのである。

自分流×帝京大学

Posted by 尾崎 景都

尾崎 景都

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Keito Ozaki
パリ第7大学 言語音声学科 修士課程修了後、日本語教師として活動中。夫は料理人。