ノルマンディ、ツジ村便り
辻村相談窓口、「失敗」 Posted on 2026/06/13 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
今日は、自分の寝室に飾る自分の絵の額装が出来た、という知らせをうけたので額装屋さんまでとりに行ってきましたよ。シンプルなケース・アメリカンという額縁です。
さて、ということで、ちょっと画材屋に行くにも田舎だと一時間はかかってしまいますが、しょうがないですね、運転疲れました。笑。
さっそく、辻村相談窓口を開くことにします。
めっちゃシンプルな質問が届いています。
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匿名希望xさん
「すごい失敗をしたときはどうしますか?」

おこたえしまーす。
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「まず、失敗のない人生ってあるんでしょうか。ぼくは数えきれないほどの、中身も様々な失敗を繰り返してきました。若い頃は、『失敗した』が口癖だったんですよね。毎日、一度は『失敗した』と言ってました。一時期、ぼくのマネージャーをやっていた弟の恒ちゃんが、苦笑しながら、『兄貴、また失敗したの、失敗多すぎない? 今度は何?』とよく揶揄われたものです。いや、ほんとうに口癖が『失敗した』だったんです。でも、その頃は30代でしたが、今のぼくはこの口癖を吐き出すことはもうないです。ある時から、失敗というものが、次を押し開く大切な経験だと気が付いたからです。小さなことで言えば、料理なんかも、けっこうすごい失敗を繰り返してきました。水をいれないでご飯を炊いたり、肉を焼き過ぎて黒焦げにしてしまうとか、分量間違えてケーキが出来ない、とか、ま、その程度のミスは日常茶飯事でした。仕事でも、たとえば、100万字くらいの小説を操作ミスで消してしまったことも、一度や二度じゃないです。それは結構、衝撃ですよね。半年くらいの時間を失うことになるので、そこから再びパソコンに向かうまでは相当の時間がかかりました。ただ、そういう経験を乗り越えてぼくは強くなっていき、今現在、『失敗した』という口癖はなくなりました。一切、出ないですね。年齢が年齢なんで、失敗が次の人生にとって大きな肥しになっていることをだんだん経験値で知っていくことが出来たからでしょう。失うものも多いですが、得るものもありました。数多くの失敗をしたから、料理の腕前が上がったのは間違いないです。失った小説は、膨大な練習だった、と心を入れ替え、一から書き直すことで、もっといいものへと形を変えることが出来たように思えます。とにかく、失敗が今の自分を形成するうえでもっとも大事な経験だったというのは間違いありません。振り返ると、辛かったね、と思う時期もありましたし、自分の愚かさを心から後悔することもありました。でも、今があるのは、その自分の歴史すべてのおかげであろうと思うことも出来ます。そういう意味では失敗というものはないのかもしれないです。人間関係で、信じて騙されることはよくあります。年に1度くらいありますが、これも失敗だとは思いません。いい勉強になった、と思ってその人から離れるようにしています。ダメだね、いくつになっても、と苦笑して、また、一生懸命、創作に向かうんです。失敗は成功の基、という言葉がありますが、ぼくはあまり好きな格言ではありません。失敗したら悔しくて、そんな風には割り切れるものじゃないからです。だからぼくは、『失敗は失敗、それでもぼくは前に進む』と自分に言い聞かせるようにしています。はい、今日も精一杯生きたりましょう。えいえいおー」

父ちゃんの独り言、&、近況のようなもの。
辛い時には、空を見て、自分を慰めています。絶望した時は、海に行き、波を見ています。眠れない夜は、余計なことを考えないようにして、心を無にするように心がけています。朝、起きたら、窓をあけ、太陽を探します。そして、えいえいおー、と心の中で、叫んでから、三四郎と散歩に出かけるようにしています。
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日本の個展は8月5日から11日まで、三越日本橋本店、特選画廊、辻仁成展「鏡花水月」。
10月22日から25日、パリ、コンコルド広場でのモダン・アートフェアに出展。コンコルド広場特設会場にて。
11月5日より、リヨン市で個展。先日、第18回リヨンビエンナーレに公式参加が決定しました。面白いことが出来るといいですね。
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