ノルマンディ、ツジ村便り
辻村相談窓口、「力が出ない時のおまじない」 Posted on 2026/08/10 辻 仁成 作家 パリ
おつかれさまです。
ええと、個展が山場を越えて、寂しさはありますが、自分の時間に戻りつつあります。さて、さっそく、相談窓口を開店させてもらいましょう。
☆
匿名希望Nさん
「辻さん、個展、おつかれさまでした。観に行かせてもらいました。なんか、ことばがでなくて、ずっと絵の世界を見つめていたんですが、空の絵が頭から離れなくなり、もう一度行きました。なんでか、涙が出てしまいました。辻さんがいったいどんな気分の時に、見上げた空なのかな、と思って、、、絵を見ながら思ったのは、その、最近、ちょっと負けそうになるんです。辻さんは、そういう時に、空を見上げるんですか? あの色は、どういう心模様を表しているのでしょうか。負けそうな時に、頑張れる言葉があれば、教えてください」

おこたえしまーす。
☆
「ぼくは、空が好きです。空を飛ぶ鳥も大好きなんです。自分の人生を振り返る時に、よく、空を見上げています。そして、様々な感情が押し寄せてきますが、だいたい、その気持ちを空は察してくれているようです。辛い時や挫けそうな時は、だから、いつも三四郎と一緒に、空を見上げて生きています。いい言葉があるので、ぼくが一時期、心の支えにしていた言葉をパスさせて頂きます。ご存じだと思いますが、「不撓不屈」という言葉なんですが、ふとうふくつ、と読みます。中国の古い歴史書に出てくる言葉で、ただがむしゃらに強く突っ走るということじゃなく、人間的な冷静さをもって、どんな苦境も着々と乗り越えていく強靭さを語った言葉なんです。不撓不屈の精神で乗り越える、という使い方をしますが、たまたま、今日、個展会場、特選画廊の横に、三越劇場というのがあって、100年前から続く古い劇場だったので、興味があり、のぞかせて頂いたんですけれど、実に素晴らしかった。(写真を残します)そこの緞帳の裏にこの言葉が描かれてありました。不撓は、たわまない、という意味ですが、そこから挫けないという意味にもつながります。不屈も、挫けない、放棄しない、諦めない、などの意味を持ちます。屈しない、人間本来の強さを鼓舞させる実に風格のある言葉だと思いませんか。ぼくは、ここぞと頑張りたい時に、いつも「不撓不屈で行け」と自分に命じています。今回の個展も一年間、毎日、十数時間はカンバスに向かい、完成させた作品には、不撓不屈の精神を封じ込めてきたつもりです。だから、今、個展が終わり、ちょっとたわんでいます。ちょっと力が抜けているんですが、明日か、明後日から、もう一度、ゼロから新しく向き合いたいと思っています。絵を描き続けること、歌を歌い続けること、小説の文字を埋めていくこと、これらはぼくの不撓不屈の芸術活動でもあります。与えられた生を最大限生き切る覚悟で、これからも強く前進をしていきたいと思っています。そういう時、ちょっと辛くなると、ノルマンディの空を見上げるんです。10歳の直君という男の子がご両親と来ていて、どの絵が好きだったかい、と訊いたら、ノルマンディの情景です、という言葉を貰えました。10歳の子に届いたものは、たわまない、くじけない、ぼくの信念だったと信じたいです。皆さん、来年、夏までに、ぼくの創作はまた一からスタートします。不撓不屈でまいりましょう。えいえいおー」

※ それから、ぼくの歌に、空、という曲があります。URLを張り付けておきますから、挫けそうな時に、聞いてみてください。
☟




