自分流・日々のことば

日々のことば、「多生の縁」 Posted on 2026/08/23 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
昨日、岸恵子さんのささやかな出会いと思い出を書かせてもらったのですが、ぼくは、朝起きて必ず自分の記事を再読する習慣があります。
で、その時、この古いことわざを思い出しました。
「袖振り合うも多生の縁」
この多生というのは、多少じゃなく、多生が正解です。
仏教から来ていることばで、何度も生まれ変わる、ことを意味します。輪廻転生ですね。
なるほど。
道ですれ違った時に、袖が触れ合うようなささやかな出会いの中にも、過去世からの深い因縁があるということ・・・。

人生というものは長いですが、その間に、数多くの人とすれ違いますね。
数日前に亡くなられた岸さんとは、過去に、ほんの一瞬の出会いがありましたが、仏教的には何かパスされたものがあった、と思ってもいいのかもしれませんね。
出会っていなくても、何か衝撃を受けるものを他人から受けた時には、そこには何かのご縁があるのだろうと思って耳を傾けるのがいいでしょうね。
もちろん、いい出会いばかりではありませんが、仮にさんざんな出会いであっても、それは魂を育てる上で重要なきっかけだった、と思うと納得出来たりもします。考えさせられます。

今日、お隣のミッシェル翁とばったり会いました。
道を三四郎と歩いていたら、門の向こうから、呼び止められたのです。
ミッシェルは、ぼくの母より一つ上です。1934年生まれ、92歳。岸さんより、一つ年下なのですが、恐ろしいくらいに元気で、毎日、自転車で隣村まで10キロ、パンを買いに走ります。
今日も、異常に元気でした。
先に亡くなられた奥様の話をした瞬間だけ、遠くを見つめ、悲しそうな表情をされましたが、でも、次の瞬間には、笑顔になって、ぼくの肩を叩いていました。

日々のことば、「多生の縁」



ミッシェルに「元気でいること」の秘訣を訊いたんですが、ぼくの仏語がひどくて、通じなかったようです。そのかわりに、甘くておいしく育っているプティトマトをひとつ、もぎってくれたんですよ。
「大事に育てたんだ。猛暑の中でも元気に育ってくれた。その厳しさに耐えたからかな、とっても熟して甘いんだよ」
耳が遠いので、ぼくのことばはあまり聞こえていません。
だから、ぼくはミッシェルと話をする時、大きな声で、しかも、ジェスチャーを交えながら話すことにしています。
ミッシェルが満面の笑みで、ぼくの肩を叩きます。
最初のころ、ぼくのことを「マダム」と呼んでいましたが、今は「ムッシュ」だと気が付きました。あはは。成長している・・・。
でも、92歳の彼にとっては、どうでもいいことなんです。
どうでもいい、と言ったら、ぼくに失礼ですが、小さなことであり、92年も生きた翁には、そんなことは、大した問題じゃないんですよね。どちらにしても、大した問題じゃないんですが、あはは。
ぼくがたまたまミッシェルのとなりにアトリエを構えたことで、ミッシェルと出会うことになりました。ぼくは彼から生きることの重大な意味を日々頂いています。
今日のミッシェルは、ずぼんをサスペンダーで吊っていました。92歳なのに、10歳の少年のような、快活さ、実に癒されました。
この少年のような老人に、ぼくは生きる力の源を頂いているように思います。この人とこんなに親しくなることを、日本で暮らしていた昔、想像も出来ませんでした。
一期一会といいますが、人との出会い、毎回、驚かされ、感動させられ、考えさせられます。
よーし、今日も明日も精一杯生きてやるぞ。
小さな声でえいえいおー。

日々のことば、「多生の縁」



父ちゃんの独り言、&、近況のようなもの。
今日は、「となりのヒトナリ」(インスタのサブスク)の生配信があり、料理をしながら、おしゃべりをさせてもらいました。ええと、アボカドの小皿と、父ちゃん得意料理の塩昆布のパスタ、を作ったんですよ。二回目の配信だったので、余裕ぶっこいていたんですが、いろいろとやらないとならないことがあって、予定より、7分遅れてのスタートになってしまいました。でも、みなさんには喜んでいただけたようです。次回は来週の週末を考えています。何を作ろうかな・・・。しばらく、定着するまで、何か料理をしながら、喋ってやろうかな、と思っています。わくわくしますね。生きていること自体が、大冒険の連続です。
おたのしみに!

日々のことば、「多生の縁」

9月4日に、集英社から、小説「泡」。
もうすぐ、見本が刷り上がるようです。青春小説という形を借りていますが、家族の小説だと思います。最初はスリリングな展開ですが、後半は、生きる、家族、繋がり、が大事なテーマになっていくような、不思議な小説ですね。
10月18日、「歌う詩人」ライブ。軽井沢、安東美術館にて。
10月22日から25日まで、パリ、モダンアートフェアに、初参加します。
11月5日から、フランス第二の都市、リヨンで、個展。
11月8日、パリでライブ、エバーマインズと対バンです。ぼくは弾き語りですけれど・・・。

日々のことば、「多生の縁」



日々のことば、「多生の縁」

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posted by 辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。