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ザ・インタビュー「コロナ最前線の医師に、東京の医療現場の現状を聞く。第一弾」 Posted on 2021/02/21 辻 仁成 作家 パリ

コロナ禍のフランスにおける医療状況は追いかけてきた。
フランスの医療従事者、研究者への取材も行ったが、日本のことはあまり知らなかった。
ぼくが大学教授をつとめる帝京大学には板橋に帝京大学医学部附属病院がある。
聞きたいこと、知りたいことがあり、ZOOMでの取材を申し込んでみた。
コロナ専門病棟を指揮するコロナ班の若きチームリーダーである杉本直也先生と、熊川由理看護師長がインタビューに応えてくださり、生々しい現状を知ることが出来た。
二人の情熱ある医療従事者としての姿勢に、ぼくはずっと共感しっぱなしであった。
ぜひ、日本の現状を読んで頂きたい。

ザ・インタビュー「コロナ最前線の医師に、東京の医療現場の現状を聞く。第一弾」

 杉本先生はコロナ班のチームリーダーとお聞きしました。リーダーのお仕事はどんなものか、まず聞かせていただきたいです。

杉本 直也先生(以下、敬称略「杉本」) チームリーダーというより、感染症内科と呼吸器内科で専門家チームを組んで診療にあたっており、私は呼吸器専門医として対応しています。東京都の調整本部から陽性患者さんの入院要請の連絡を受け、入院の調整を行い、患者さんが来院されたら病状の評価をして治療方法を決めていくことをしています。また、院内でのコロナ関連の相談があれば適宜受けています。

 なるほど。感染症チーム、呼吸器科チーム、あとは麻酔科もでしょうか?

杉本 そうですね。重症患者さんの場合はICUを使いますので、全身管理を行う麻酔科の医師も診療に加わりますし、あと循環器内科、高度救命救急センターとも組んで診療にあたっております。様々な職種も関わってくるため、今回このコロナ禍で横の繋がりがかなり強くなった気がします。

 スタッフはどれくらいの人数いらっしゃるのでしょうか?

杉本 基本的に、専門家チームとしてメインで動いている医師が9名おりますが、麻酔科、循環器内科、高度救命救急センターを含めると多くの医師が関与しております。

 入院される患者さんの連絡はどこからあるのでしょうか? 保健所、もしくは、東京都? 救急車ということもあるのでしょうか。

杉本 基本的に、PCR検査で陽性になった方がいると保健所に届け出をしますので、そこで情報が集約され、管轄内で入院先を探します。保健所で見つからない場合は、東京都が入院の調整を行います。東京都の調整本部は、その日の空床を把握しており、患者さんを各病院に振り分けます。ただ、どうしても調整がつかない場合や、軽症と判断されて自宅待機になっている方も多くいらっしゃるわけで、その方々が重症化して救急車で来られるということも最近は増えています。

 救急車が帝京大学医学部附属病院に来るときの判断というのは病床の空きなどで判断されるということですが、患者さんがどこから来るかというのは予測できない状況ということでしょうか。

杉本 予測はできないですね。基本的には距離が近いところから来られますが、特に今は病床がいっぱいで断られるケースが多いと聞いています。なので、かなり遠方で、何十Kmも離れたところから、何時間も調整されて、やっとうちの病院にたどり着くケースもあります。

ザ・インタビュー「コロナ最前線の医師に、東京の医療現場の現状を聞く。第一弾」

※2月中旬に行われた東京とパリを結ぶZOOMインタビューの一コマ。右、マスクの人物が杉本直也医師。帝京大学医学部附属病院、呼吸器・アレルギー学(肺研) 助教



 フランスでは新型コロナ第1波の時に、自宅待機中に重症化して病院にたどり着く前に亡くなってしまうというケースもありました。日本もそういう状況があると思うのですが、病院としてはやはり、それを防ぐための迅速な流れを作ろうとされているのでしょうか。

杉本 そうですね。新型コロナ感染症が始まった頃はどうやってコロナの患者さんを受けたら良いのか、どこで診療するのか、という流れが全くないゼロの状態から始まったので、こういうケースはこうする、こういうケースはこうする、といったように患者さんごとに想定して、細かい流れを病院全体で練り上げて作っていきました。しかし、やはりケースバイケースで、例えば透析をしている方とか、手術が必要な方とか、または、家族のサポートが受けられないとか、個々の患者さんによって状況がまちまちなので、その都度患者さんが困らないように、どうするかを常に考えながら診療にあたっているのが現状です。

 患者さんが搬送されてからの流れというのはどういうものなのでしょうか。

杉本 基本的には、診断されて自宅待機されていた方がこちらの病院に移動されるわけですが、移動手段は公共交通機関が使えないので、保健所が民間救急車を手配し来院されます。具体的には、民間の感染対策ができる車で、患者さんのご自宅にお迎えに上がって、病院に搬送するという流れです。病院に到着されると、隔離された専用の入口を通って病室に案内します。

 そこからはどのような治療が行われるのでしょうか。

杉本 まず病状の評価ですが、基本的に、ほぼ肺炎が起こるウイルスなので、画像の検査が必要です。レントゲンもしくはCTを行い、酸素モニターで呼吸状態の評価を行います。これらの検査から全体の状態を確認し、今必要な治療を検討する流れになっています。



 1日にどれくらいの方がいらっしゃるのでしょうか。

杉本 現在は平均で3名ほどです。3名来られて3名退院するような感じです。

 平均的な入院日数というのはどれくらいなのでしょうか。

杉本 退院の基準として、「発症から10日間かつ、症状軽快後3日間経過した場合退院可能」というのがあるのですが、実際はこの期間ですっきりと治って退院される人は、少ない印象です。期間を過ぎても、肺炎を含めた何かしらの後遺症で、症状が残っていることが多いです。入院日数でいうと、2~3週間程度の在院日数が多いと思います。長い場合、1ヶ月とか2ヶ月近く入院される方もいらっしゃいます。

 フランスでもなかなか、一度入院すると退院するまでに時間がかかるという状況で、2月9日現在、ICUの占有率がパリ近郊で78%まで来ています。病院に入るのも結構難しくなってきていますが、日本ではどのような症状の方が入院することができるのでしょうか。

杉本 昨年夏ぐらいまでは若い患者さんが多く、比較的軽症の方が多かったですが、最近は高齢の方が入院されることが多くなりました。なので、それに比例して呼吸器症状の重い方が増えており、看護の面からも介護度も増している印象です。入院に関しては、もちろん、重症の方が優先されます。保健所が介入して、コロナで重症化しやすい基礎疾患というのがはっきりしてきているのですが、それを持っている方が優先して入院に振り分けられるようなシステムになっています。



 なるほど。自分がちょっと具合悪いと重症なのじゃないかと思ってしまう人もいるかも知れませんし、あるいは疎くて、まだ大丈夫だと思いながらお亡くなりになってしまう方もいらっしゃると思うんですね。一般の方に、このような症状までくると重症だと判断するべきというような判断基準というのはあるんでしょうか。

杉本 それがなかなか難しく、全く平気だとおっしゃる方も、酸素モニターで数値を測ってみると結構悪いということもよくあります。自覚症状として、咳も出ない、息切れもしないけれども、しっかり肺炎があるという方も多くいらっしゃるので、自覚症状や、病状の聴取のみで判断すると、そういったケースは見逃される可能性があります。SpO2モニター(パルスオキシメーター)というのが最近ではネットでも購入できますので、それを目安に判断するとよいかも知れません。その数値が90%を下回ると呼吸不全と判断できますので、入院が妥当と判断できます。

 指にはめるやつですね。うちの親戚も購入していました。ところで、医師や看護師さんが感染しないように帝京大学医学部附属病院ではどのような措置を取られているのでしょうか。

杉本 帝京大学医学部附属病院では、2010年に多剤耐性アシネトバクター感染症のアウトブレイクが起こりました。それを教訓として、以後、普段からスタッフの感染に対しての意識は高く、しっかりとした対策をとっておりました。年複数回の講習も行っており、アルコール消毒や、マスクや防護服の着方など、正しいやり方を定期的に確認しています。コロナも基本的に飛沫感染と接触感染ですので、特にそこを徹底して、感染対策をしながらやっています。特に防護服を着る時など、正しい方法でないと全く意味をなさないので、鏡を見ながら、また、二人一組でおかしいところがないかチェックをしながら着ています。

 防護服を着るのに時間がかかるとフランスの医師も嘆いてましたが、そういう現状があるのでしょうか。

熊川 看護師 そうですね、特に看護師はナースコールで呼ばれて部屋に入ることが多いのですが、一回入ると滞在時間が2時間ぐらいになるため大変です。しかし、当院ではゾーニングを採用しており、防護服が必要なゾーンと必要でないゾーンに分けているため、常に防護服を必要とする施設に比べて、ストレスは少ないかもしれません。

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 フランスでは深刻な医師不足、看護師不足に見舞われていますが、日本はどのような状況でしょうか。

杉本 日本はフランスほどではなく、当院の現状では比較的何とか対応できています。コロナ病棟も1名常駐して対応しております。 

 今日現在(2月9日)どれくらいのコロナ患者さんがいらっしゃいますか。

杉本 今日現在(2月9日)、25名程入院されています。今日も先ほど要請があり、入院患者さんがいらっしゃいました。

 一番きついところはなんでしょうか。現場の声というか、そういうのを聞かせていただきたい。大変な部分もあると思いますが。

杉本 患者さんはコロナだけでなく、例えば私の領域ですと、肺癌、喘息など、他の疾患のある方の診療もあわせて行っているので、実際に業務量はかなり増えています。ただ、そこはなんとか踏ん張って、通常診療を維持し、大学病院として、プロフェッショナルとして、プライドを持って頑張りたいと思っています。また、負担が一局集中にならないようにみんなで協力しあって、励まし合ってやっています。大変だと思うのは、なかなか終わりが見えないということですかね。この状況がいつまで続くかというのが非常に懸念されるところで、今の状況5年間頑張りなさい、と言われるとなかなか厳しいかなと感じます。あと1年と言われるとなんとか頑張れるかな、と。

 やはり、医師同士、看護師さん同士で励まし合うことは多いのですか?

杉本 はい、そうですね。みんな同じ方向を向いて、同じ目標をもってやっていますから、できるだけコミュニケーションをとって風通しよくやりたいと思っています。ちょっとしたことで角が立っても、よい方向には進みませんから、お互い相談しやすい環境を作ってやっています。

 杉本先生も看護師の熊川さんもお若く見えますが、若いスタッフの方が中心なのでしょうか。

杉本 私は38歳ですが、だいたい年齢が近いスタッフが前に出て診療にあたっています。

 若いエネルギーで非常に心強いですね。フランスは3度目のロックダウンが噂されていますが、2回目のロックダウンの時はテロも重なって、お医者さんの精神状態も非常に厳しかったようです。みなさんは笑顔ですけど、それでも大変な日々なんだろうなと思います。そんな中で、日本のみなさんに伝えたいことなどありますでしょうか。

杉本 私たちは医療者で、患者さんを診るのが仕事ですが、例えば飲食店の方は、経営に困っている方も非常に多いと思うので、現状を打破する程の力になれないのは心苦しいですね。私は、今後広がっていくだろう、ワクチンには期待を持っています。少しでも感染率や、重症化が抑えられれば、経済活動も回ると思いますし、いい方向に向かっていけばいいなと思っています。また、私には小学生の息子がいますが、コロナが始まってなかなか外にも遊びに行けない状況が続いていますので、それも可哀想だなと思っています。早くこの状況が良くなることを祈るばかりです。

 世界中の人が切実に祈っていることですね。ワクチンの話が出ましたが、次回はワクチンや予防法など、具体的なお話もぜひ聞かせてください。つづく。

ザ・インタビュー「コロナ最前線の医師に、東京の医療現場の現状を聞く。第一弾」



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posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。