PANORAMA STORIES

三四郎との対話、1 Posted on 2026/04/10 辻 仁成 作家 パリ

おつかれさまです。
もしも三四郎が日本語を話せたなら、と思うことはしょっちゅうです。
いや、もしかしたら、喋っているのかもしれません。目力が強いですからね・・・。
「パパしゃん、なんかね、ぼく、おなかがすいたかも」
ある日、そんな気がしました。やっぱり、喋りやがった、と・・・。
「え? 何だって?」
「なんか食べたい」
「さっき、食べたじゃん」
「あれは、朝ごはんでしょ? そういうのじゃなくて、おやつがほしいんだ」
ほしんだって、・・・喋った。
なんか、言いたいことがあるのはわかります。じっとぼくのことを見ている時は、だいたい、おやつをねだっている時なんですよね。
「ダメだよ、そんなに食べてばかりいたら、太っちゃう」
「太ってもいいよ、食べたいんだもの。なんで、太ったらいけないの? 自分はいつも食べてるじゃん。美味しそうなものを作って、ずるい」
「だって、人間だもの」
「ぼくだって、犬だもの。生きているんだもの、おなかくらいすくんだ。おやつが食べたい。チキンのとか、サーモンのがいい」
そういう会話をしているような気持ちになるんですよね。お前、喋った? と思わず聞き返しそうになるんですが、よくわかりません。空耳でしょうか。
「なんで、太ったら、ダメなの?」
「長生きしてほしいから、適正体重ってのがあってね、君の場合は、7キロ以内なの。7キロ過ぎると、パパと一緒に飛行機に乗れないんだ。一人で貨物室に行くの嫌だろ?」
「飛行機なんか、乗りたくないよ。おやつの方がいい。だから、太っても構わない。それって、自分がぼくを連れて行きたいだけで、人間のエゴでしょ?」
「ま、そうかもね」
「外国なんか行きたくないよ。車で行けるところでいいじゃない。スペインとかイタリアでいいじゃん」
「ま、そうだけれど」
「だから、おやつください。子羊のクッキーがあったでしょ、あれ、ぼく大好きだよ」
「よく見てるな。日本で買ってきたやつだな。しょうがない、一つだけだぞ」
「やった、わん♪」

三四郎との対話、1

三四郎との対話、1

「ところでパパしゃん、いつも美味しそうなごはんを作って、一人で食べているけれど、寂しくないの? よければ、ぼくが横で一緒に食べてあげるよ~」
「いいよ、寂しくないもの」
「でも、作った料理を毎回、写真に撮って、それを自慢するように日記にアップしているけれど、そんなことするのは寂しい証拠じゃないの」
「うるさいな。余計なお世話だよ」
「テーブルクロス敷いてさ、並べてさ、写真撮ってさ、自撮りとかして、しかも笑顔で、キモイな」
「う、うるさいんだよ」
「孤独過ぎる」
「うるせーな。パパしゃんがいなければ、お前こそ、あんなに美味しいご飯食べられないんだぞ。毎日、他の犬はドッグフードだけなのに、お前は、ちゃんとパパしゃん手作りのチキンの煮込みがかかったドッグフードなんだから、文句言うな」
「文句なんか、言ってないよ。感謝してます」
「ほんとかな」
「ほんとうだよ。それに、ぼくが寂しさを紛らせてあげているでしょ? 寄り添っているし、魔除けもしているんだから」
「魔除けもしてくれてるの?」
「してるよ。悪霊がこの家に入ってこないように、見張ってるんだ。番犬だもの」
「そうか、たしかに、ここに越してきて一度も悪霊とでったことがないな」
「当たり前だよ、ぼくが追い払っているんだ。わんわん、吠えてるのは、悪霊に向かってだよ」
「あれ、通行人に向かって吠えているのか、と思ったけど、悪霊なの?」

三四郎との対話、1

三四郎との対話、1

寝る時は、三四郎は「ハウス」と呼ばれている犬小屋で寝ます。
「じゃあね、さんちゃん。また明日」
「・・・」
「どったの?」
「なんか、忘れているでしょ?」
「なんだっけ?」
「歯磨きガム、まだ貰ってない」
「あああ、忘れてた」
夜の散歩のあと、三四郎の歯の健康のために、歯磨きガムを与えています。これがさんちゃんの夜の愉しみなのであります。
「じゃあ、お座り」
ちゃんとお座りが出来る三四郎。えらい。
歯磨きガムを与えると、さすが、元狩猟犬だけあって、獲物を加えて机の下へと潜り込み、そこでガムガムしています。その光景を眺めてから、父ちゃんは、電気をけして、自分の寝室へと入るのです。
あ~、疲れた。空耳でしょうか。
「じゃあね、おやすみ~」
つづく。

三四郎との対話、1

近況のようなもの。
音楽活動について、思うところがあって、自分の健康と若さを維持するには、歌い続けるのは大事だな、と思っています。ビジネスライクな活動ではない、純粋な音楽活動、いいですよね。ご期待ください。
鶏ごぼうご飯を作ったのですが、ゴボウは、まいばすけっと、という日本のスーパーで買いました。
夏の個展、作品の絞り込み、今日も悩んでました。で結局、悩みに悩んで、世界観があまりに違うのでとボツにしていた作品を、加えることにしたんです。60点を超えそうです。ゴールデンウイーク明けから、日本に向けて郵送開始かな、と思っています。
ま、そんなところですかね。わん♪

三四郎との対話、1

帝京×パリ・オンラインアートカレッジ

三四郎との対話、1

辻仁成 Art Gallery

三四郎との対話、1

Posted by 辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家、画家、旅人。パリ在住。パリで毎年個展開催中。1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。愛犬の名前は、三四郎。