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パリ最新情報「流行する一般家庭の『庭レンタル』、パリ周辺で人の輪ができつつある」 Posted on 2022/08/15 Design Stories  

 
今年の夏は、約7割ほどのフランス人がバカンスに出発したという。
これは2015年以来の賑わいだというが、燃料代高騰のためそのうちの半数が国内旅行となっているそうだ。
もちろんバカンスに行かない・行けない人も中にはいる。
そうした人々の間でちょっとした気分転換になっているのが、イル・ド・フランス圏内(パリを中心とした首都圏)における「庭の貸し借り」なのだそうだ。
 



パリ最新情報「流行する一般家庭の『庭レンタル』、パリ周辺で人の輪ができつつある」

 
庭レンタルサイト「Jardins-prives.com」は、2016年にパリ郊外で始まった。
これはパリに隣接するいくつかの県において、700以上に及ぶ庭のレンタルまたはシェアを可能にした仲介サイトだ。
開設時はたった31人のユーザーだったというが、2022年の夏には1万人近くに迫っており、庭を持たないパリジャンを中心に人気急上昇中だという。

721件のうち、貸出用として登録されているのは608件、そして113件が家庭菜園のためのシェア用である。
レンタルでは誕生日会用が一番多く、次いで結婚式の披露宴、ベビーシャワー、バーベキューと続いている。
中でもプールのある庭は競争率が高く、今年の熱波がその傾向を強めているとのことだ。
そのためサイトはこのサービスを「大自然とバーベキューのAirbnb版のようなもの」と説明する。
 

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パリ最新情報「流行する一般家庭の『庭レンタル』、パリ周辺で人の輪ができつつある」

 
とりわけ家庭菜園のシェアは、お年寄りや一人暮らしの人のための大切なコミュニケーションツールにもなっている。
オンライン化の波はフランスにも勢いよく押し寄せているが、オンラインだけでは心の隙間が埋まらないこともある。
そのため自宅の庭をシェア用家庭菜園として貸し出しているのは、パリ郊外に住む高齢夫婦が多いとのことだ。

人によって月額と設定する所はあるものの、「綺麗に使うこと」を条件に無料で貸し出している庭もある。
例えば所有者は高齢のためお手伝いは不可、とサイト内で申告しているが、ペットの同伴がOKだったり、駐車場完備だったりと待遇は厚い。
なおいずれの場合も、収穫した野菜は無料で持ち帰ることができる。
 



パリ最新情報「流行する一般家庭の『庭レンタル』、パリ周辺で人の輪ができつつある」

 
このシステムは、「金銭的な取引を伴わず、社会的・世代間でもつながることができるため非常に魅力的です」と、貸す方からも借りる方からも評判が良いという。
また昨今のインフレ対策にもなっているといい、“いざ”という時のための自給自足のシュミレーションを買って出る人もいるそうだ。

ロックダウンをきっかけに、家庭菜園への関心はフランスでも高まった。
ところが自治体が提供する貸し菜園は今、かなりの順番待ちですべての需要には応えられないとのことだ。

その理由はコロナ・ウクライナ危機を経て、食糧自給に対するフランス人の意識が高まっているためである、とJardins-prives.comの創設者は分析する。
こうしたことからも、民間ベースの共同菜園はこれからのフランスで増えるのかもしれない。

「庭の貸し借り」は、バカンスに行かない・行けない人にとって良い案なのはもちろん、お年寄りと接点を持つなど、社会的なつながりにも役立っていることが分かった。
特に今年は熱中症で倒れる高齢者がフランスでも続出している。
フランス政府はその数を公表していないが、家族と離れて一人で暮らすお年寄りは多い。
インフレ、電力不足、熱波、干ばつなど、困難が次々と降りかかるフランス。
しかしその裏側で、人と人とのつながりがより強固になっているようにも思う。(大)
 

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