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自分流塾「人生がままならない時に言い聞かせる魔法の言葉」 Posted on 2025/01/29 辻 仁成 作家 パリ
なぜ人生は思い通りにならないのか。
思い通りにならない時、人間はストレスを感じるものだ。
だいたい、がっかりするのは、夢や希望がかなわない時だったり、ものごとが思い通りにならない時、なのである。
しかし、夢や希望を持たないということはできないし、夢や希望がない人生なんて、そもそも、面白くない。
そこで、ぼくはある時から一つのルールを作った。
世の中というものは、思い通りにならないものだ、と最初に心がけておく。ま~、無理だから、余計な期待はしないでおこう、と自分を弁えるのである。
いい人でいようと頑張るから、自分にがっかりする。
そもそも、俺なんかダメな人間じゃん、からはじめておけば、自惚れることもないので、つまり、がっかりすることもない。
大金持ちになろうとか、大成功してみせるぞ、と目標を掲げすぎるから、あとで、落胆する。
なので、最初に、ここが大事なのだけれど、高い目標は絶対に掲げない、ということが大事なのだ。
でも、ちょっと低いけれど、実現できそうなものを目指す。
本当は、一番上を目指していても、笑、心の中で、「ちょっと大きく出過ぎてるよね」と自分に言い聞かせることも大事。
トップになるぞ、と狙っていても、言葉にするのは「いや、無理でしょ。敵も多いし、そこまでの実力ない」と風呂敷はできるだけ、ちいさく広げておくのだ。
心の底では、虎視眈々と狙っていい。
でも、表向きは、ダメでもともと、と普段から自分にも、周囲にも、ややブレーキを効かせておく。
そうしておくと、ダメだった時に、落胆はするが、死にたくなるほどの絶望にはならない。
あと、出来れば同時に、他にもいくつか夢を持っておくといい。
一つがとん頓挫し、瓦解しても、別の希望に乗り換える、飛び移る、しがみつく、準備をしておけば、なんとか、希望をつなぐことが出来るのだから・・・。
「そんな奴、成功しないぞ」と言われるかもしれない。
でも、成功って、何だろう?
夢や希望って、どんなものだろう?
まず、大事なこと。
それは、人生、どこで達成感を覚えるのか、ということにかかってくる。
小さな達成感が積み重なって、それが自信となり、大きな達成感へとつながればいいのじゃないか?
ぼくは、自分を無理させず、自分が出来る範囲で、納得した仕事や人生を積み重ね、時に失敗をしても、それを失敗とは絶対に認めず、これはまだ長い人生の過程、途上、途中の経験に過ぎないのだ、と自らに言い聞かせ、自らの肥しにするような生き方、を「よし」として挑んできた。
ま、軟着陸の連続だったが、航続距離だけは伸びた。
・・・。
人生というものは、長い旅であり、どこが終わりか、というのでさえも、終わるまでわからないのである。
成功した人が、くだらないことで躓き、一瞬で栄光を失うことは、見回せばそこらじゅうにあふれている。
億万長者が翌朝に文無しになっていることも、ままある、世界なのだ。
「ままならない」という言葉は、物ごとが期待通りに進まずにどうしようもない様子だったり、あるいは、停滞した時に持つ歯痒い気持ちだったりする。
誰もが、身に覚えがあること・・・。
そして、「ままならない」の反意語は、「順調」なのである。
成功したか、失敗したか、実は、それは最後までわからないものだ、ということを最初に気が付くことが大事である。
だから、失敗しても、そこで掴んだ経験が次のステップに生かされる時に、ようやく、「順調」がやってくる。
ぼくらは人生を常に一喜一憂せず「順調」を目指して、航海を続けていくべきであろう。
今、うぬぼれて天下を取っている人たちが、次に奈落に落ちる順番、途上にあることを知るべきであろう。
まだ、上がある。登らないとならない。
自惚れている暇はない。
だから、今の苦難を乗り切る、と思って日々を高望みせず、一歩一歩着実に進んでいくこと、つまり、それが、順調、なのである。
順調ですか?
焦らず、怯えず、ゆっくりと、山あり谷あり、お互い、進んでまいりましょう。
えいえいおー。
posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。